一 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動にあたらない。 二 D労働組合の組合員が、組合活動に際し、職員詰所に設置された日本国有鉄道の所有し管理する物的施設の一部で組合員が利用を許されているロツカーに要求事項等を記入したビラを許可を得ないで貼付する行為は、組合掲示板以外の施設へのビラ貼付が禁止されており、ビラの大きさ・色彩・枚数等に照らし貼付されたビラが職員等の目に直ちに触れ、組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるなど、判示の事実関係のもとにおいては、当該施設を管理利用する利用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動にあたらない。
一 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の物的施設を利用して行う組合活動の当否 二 D労働組合の組合員が組合活動に際し職員詰所備付けのロツカーに要求事項等を記入したビラを貼付する行為が正当な組合活動にあたらないとされた事例
労働組合法1条2項
判旨
労働組合が使用者の承諾なく企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、原則として正当な組合活動とはいえず、使用者がその利用を許さないことが権利の濫用と認められる特段の事情がない限り、企業秩序を乱すものとして懲戒の対象となりうる。
問題の所在(論点)
使用者の許諾なく企業の物的施設を利用して行われた組合活動が、日本国憲法28条または労働組合法上の正当な活動として保護されるか。また、これを理由とする懲戒処分が適法か。
規範
労働組合は当然に企業の物的施設を利用する権利を保障されているわけではなく、組合活動のための施設利用は本来、使用者との合意に基づくべきである。したがって、使用者の許諾を得ない物的施設の利用は、不許可が権利の濫用と認められる特段の事情がない限り、職場環境を適正良好に保持し規律ある業務の運営態勢を確保する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動にはあたらない。
重要事実
国鉄(当時)の職員ら(被上告人ら)は、春闘の一環として、当局の許可なく職場内のロッカーに多数のビラを貼付した。上司がビラの剥離や貼付中止を命じたが、被上告人らはこれに従わず、一部では制止する上司の手を払いのける等の行為に及んだ。当局は、これらの行為が就業規則上の「上司の命令に不服従」「著しく不都合な行い」に該当するとして、被上告人らを戒告処分に付した。
あてはめ
本件ロッカーは当局が管理する物的施設であり、組合掲示板以外の場所への掲示は禁止されていた。ビラは多数かつ色彩豊かで、職員の目に常時触れる状態にあり、視覚を通じた訴えかけを継続的に行うものであった。このような状況下での不許可は、適正な職場環境の保持という企業秩序維持の観点からやむを得ないものであり、権利の濫用とはいえない。ビラの文言に不穏当な点がなく、剥離が容易な方法であったとしても、本件の態様は企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動とは認められない。したがって、中止命令等に従わない行為は懲戒事由に該当する。
結論
本件ビラ貼付行為は正当な組合活動とはいえず、これに対する中止命令に従わなかったことを理由とする戒告処分は、裁量権の濫用もなく適法である。
実務上の射程
職場内でのビラ貼り、リボン着用、立て看板の設置など、企業の物的施設を利用する争議行為・組合活動の正当性を判断する際のリーディングケースである。答案では、まず原則として「施設管理権の優越」を述べ、例外的に「権利の濫用となる特段の事情」の有無を、具体的態様(業務阻害の程度、態様の執拗さ、代替手段の有無等)から検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和59(オ)1318 / 裁判年月日: 昭和61年7月14日 / 結論: 破棄差戻
全国的規模の会社の神戸営業所勤務の大学卒営業担当従業員が母親、妻及び長女と共に堺市内の母親名義の家屋に居住しているなど、判示の事実関係のみから、同従業員に対する名古屋営業所への転勤命令が権利の濫用に当たるということはできない。