全国的規模の会社の神戸営業所勤務の大学卒営業担当従業員が母親、妻及び長女と共に堺市内の母親名義の家屋に居住しているなど、判示の事実関係のみから、同従業員に対する名古屋営業所への転勤命令が権利の濫用に当たるということはできない。
転勤命令が権利の濫用に当たらないとされた事例
労働基準法2章労働契約
判旨
労働協約や就業規則に転勤命令権の根拠があり、勤務地限定の合意がない場合、使用者は個別的同意なく転勤を命じ得るが、業務上の必要性がない場合や、不当な動機・目的がある場合、または労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合は、権利の濫用として無効となる。
問題の所在(論点)
就業規則等に転勤命令の根拠がある場合において、当該命令が権利の濫用となるか。特に「業務上の必要性」の意義と、家族との別居等の「生活上の不利益」の評価が問題となる。
規範
転勤命令権の行使は、①業務上の必要性が存しない場合、②業務上の必要性が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、又は③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がない限り、権利の濫用(労働契約法3条3項参照)にはならない。なお、①の業務上の必要性は、余人をもって替え難い高度な必要性である必要はなく、労働力の適正配置や業務運営の円滑化等、企業の合理的運営に寄与する点があれば足りる。
重要事実
塗料販売会社に勤務する労働者Xは、大阪で採用され、勤務地を限定する合意はなかった。会社は、広島営業所の後任としてXに転勤を内示したが拒否されたため、さらに名古屋営業所への転勤を命じた。Xは、71歳の母、妻、2歳の長女と居住し、母の扶養や妻の仕事(保育所勤務)を理由にこれを拒否。会社は転勤拒否を理由に懲戒解雇した。なお、名古屋営業所へは結局別の者が赴任し、特段の支障は生じなかった。
事件番号: 平成8(オ)128 / 裁判年月日: 平成12年1月28日 / 結論: 棄却
従業員数約二〇〇〇人の会社の東京都目黒区所在の技術開発本部に勤務する女性従業員に対し、同八王子市所在の事業所への転勤命令がされた場合において、同従業員が他の会社に勤務する夫及び保育園に通う長男と共に同品川区所在の借家に居住しており同所から右事業所へ通勤するには最短距離で片道約一時間四五分を要するなど判示の事実関係の下に…
あてはめ
まず、名古屋営業所の欠員補充という目的は、企業の合理的運営に寄与するものであり、①業務上の必要性は優に認められる。次に、Xが主張する母の扶養や妻の就労状況といった家庭生活上の不利益は、転居を伴う転勤において一般に予測される範囲内のものである。Xがいないと家庭が破綻するような特殊事情や、不当な動機も認められない。したがって、本件転勤命令は③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえず、②不当な動機等も認められない。
結論
本件転勤命令は有効であり、これに従わないことを理由とした懲戒解雇も(他の無効事由がない限り)有効となり得る。原判決の濫用認定には法令の解釈適用を誤った違法がある。
実務上の射程
転勤命令の有効性を争う事案において、実務上のリーディングケースとなる。答案では、まず勤務地限定合意の有無を検討し、合意がない場合に本規範(3要素)を定立する。「通常甘受すべき程度」のあてはめでは、介護や育児の個別具体的な困難性を精査し、単なる共働きや高齢の親の存在だけでは濫用を否定する方向に働く点に注意が必要である。
事件番号: 昭和49(オ)1188 / 裁判年月日: 昭和54年10月30日 / 結論: 破棄自判
一 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な…