薄暮時ないし夜間における降雨時に道路とこれに沿う川との境の見分けがつきにくく、右道路を走行する自動車が運転を誤つて川に転落する危険のある場合でも、右危険に対する安全を確保するには視線誘導標識ないし夜間の照明設備を設置すれば足り、夜間の降雨時に右の見分けのついていた運転者が他の理由で急制動の措置を講じたため自動車が路面を滑行して川に転落した事故との関係においてガードレールの設置のないことを道路の設置ないし管理の瑕疵とするためには、別段の事情が存在することを必要とし、路面がかまぼこ型であつたなど原判示のような事実があるというだけで右の瑕疵があるとした原判決は理由不備である。
ガードレールを設置しないことが道路の設置ないし管理の瑕疵にあたるとの判断に理由不備があるとされた事例
国家賠償法2条,民訴法395条1項6号
判旨
国家賠償法2条1項の「設置又は管理の瑕疵」の有無は、道路が通常有すべき安全性を欠いているかによって決すべきであり、防護措置の要否は事故の具体的な発生態様や道路の構造を精査して判断すべきである。道路外への転落防止のためのガードレール設置の要否については、視覚的な境界識別のみで足りるか、あるいは路面の傾斜等により滑行・転落する危険性まで考慮すべき特別な事情があるかを個別に検討する必要がある。
問題の所在(論点)
国家賠償法2条1項の「設置又は管理の瑕疵」の有無。具体的には、境界識別を助ける設備(照明や標識)ではなく、物理的な転落を防止するガードレールの設置義務まで認められるか、及びその判断にあたって考慮すべき事情が問題となった。
規範
国家賠償法2条1項の「設置又は管理の瑕疵」とは、公の営造物がその種類・性質に応じて通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。安全性の判断にあたっては、当該施設の本来の目的、利用の形態、場所的状況、危険の具体的程度、及び回避可能性等の諸要素を総合的に考慮すべきである。特に道路において特定の防護施設の欠如が瑕疵とされるためには、当該施設がなければ通常予測される危険を防止できないといえるだけの必要性が認められなければならない。
重要事実
被害者Dは、激しい降雨中の夜間、幅員約4.5メートルの道路を走行中、前方のカーブに気づき急制動をかけた。当該道路は川に沿った直線区間で、路面が川側へ向かって平均勾配約4.26パーセントの「かまぼこ型」に傾斜していた。Dの車両は滑りやすい路面で滑行し、ガードレールがなかったため川へ転落した。原審は、境界の識別が困難な点や滑行の危険を理由に、ガードレール等の未設置を瑕疵と認めた。道路管理者(上告人)がこれを不服として上告した。
あてはめ
本件事故は、境界を見誤ったことによるものではなく、急制動による滑行が直接の原因である。境界識別のためであれば視線誘導標識や照明で足りるが、さらにガードレールの設置まで必要とするには、特段の事情が必要である。原審が挙げた「かまぼこ型」構造については、平均勾配が約4.26パーセントに過ぎず、この程度の傾斜をもって直ちにガードレール未設置が安全性を欠くと断定するには根拠が不十分である。また、過去の事故例が路面の傾斜による滑行によるものか等も不明確であり、どのような走行状態で滑行の危険が生じるのかという具体的検討を欠いている。したがって、原審の事実認定のみでは、通常有すべき安全性を欠くとは直ちに認められない。
結論
本件道路にガードレールを設置しないことが直ちに設置管理の瑕疵にあたるとした原審の判断には、理由不備または法令の解釈適用の誤りがある。さらなる審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
道路の瑕疵を論じる際、単に「危険がある」という抽象的な主張だけでなく、当該事故の発生原因(境界の見誤りか、物理的滑行か)と、それに対応する具体的防護措置(標識か、ガードレールか)の相関関係を厳密に分析すべきことを示唆している。答案上は、設置義務の有無を検討する際に「施設の設置目的」と「予測される事故の態様」を対応させてあてはめる際の準拠となる。
事件番号: 昭和53(オ)979 / 裁判年月日: 昭和55年3月13日 / 結論: 棄却
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