手形の譲受人において、手形受取名義人が当該手形の所持人であることにつき疑念を懐いて然るべき原判決理由説示のような事情があるのに、手形振出名義人又は支払担当銀行に照会するなどなんらかの方法で手形振出の真否につき調査をしなかつたのは、重大な過失があるということができる。
盗難手形の取得者に手形法一六条二項但書の重大な過失があるとされた事例
手形法16条2項
判旨
手形取得者が、譲渡人の所持について疑念を抱くべき事情がある場合には、振出名義人等への照会による調査義務を負い、これを怠ることは手形法16条2項の「重大な過失」に該当する。
問題の所在(論点)
手形取得者が譲渡人の権利の有無について疑念を抱くべき事情がある場合に、調査義務を尽くさず手形を取得することが、手形法16条2項(または準用される同法77条1項1号)の「重大な過失」に該当するか。
規範
手形法16条2項にいう「重大な過失」とは、譲渡人が手形の処分権限を有しないことを知らなかったことにつき、わずかな注意を払えばこれを知り得たのに、漫然とこれを見過ごしたことをいう。具体的には、手形の取得に際し、譲渡人の所持の適法性について疑念を抱くべき客観的な事情が認められる場合には、取得者は振出名義人や支払担当銀行に照会するなど、何らかの方法で権利関係を調査すべき注意義務を負い、これを全く行わない場合は重過失があると解される。
重要事実
上告人は、訴外Dから本件各手形を取得したが、その際、Dが当該手形を正当に所持していることについて疑念を抱いて然るべき客観的な事情が存在していた。しかし、上告人は、手形振出名義人や支払担当銀行に対して手形振出の真否を確認するなどの調査を一切行わずに本件手形を取得した。
あてはめ
本件において、上告人がDから手形を取得する際に疑念を抱くべき事情があった以上、上告人には振出名義人等への照会義務が生じていたといえる。それにもかかわらず、上告人は「なんらの調査」もしなかったのであるから、わずかな注意を払えば無権利の事実を知り得た状況であったといえ、その注意義務違反は著しい。したがって、上告人には重大な過失が認められると判断される。
結論
上告人には本件手形の取得につき重大な過失が認められるため、手形法16条2項により善意取得は成立しない。
実務上の射程
手形の善意取得における重過失の具体的判断基準として、調査義務の発生要件(疑念を抱くべき事情)とその不履行による評価を明示したものである。答案上では、譲渡人の属性や手形金額、取引の態様から「疑念を懐いて然るべき事情」を認定し、調査の容易性(照会の可否)と対比させて重過失を導く枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和40(オ)293 / 裁判年月日: 昭和41年6月21日 / 結論: 棄却
手形法第一六条第一項による推定を覆すためには、手形取得者に同条第二項但書所定の事実が存在することの主張を要する。