甲が、本訴及び反訴における乙の主張に沿つて、売買契約の解除、取消の主張を撤回し、右契約上の義務を履行したうえ、乙に対し売買の目的物の引渡等を求める再反訴を提起した後に、乙がさきに自ら否認した右解除、取消の主張を再反訴請求を争うための防禦方法として提出することは、訴訟上の信義則に反し許されない。
訴訟上の信義則の適用が認められた事例
民法1条2項,民訴法第1編第4章第1節
判旨
当事者が相手方の主張に沿って自らの主張を撤回し、義務を履行した後に、相手方が一転して自ら否認していたはずの撤回済みの主張を蒸し返す行為は、訴訟上の信義則に反し許されない。
問題の所在(論点)
当事者の一方が、当初自ら争っていた相手方の主張(取消・解除)を、相手方が撤回した後に、自己の防御方法として援用することが、訴訟上の信義則(禁反言の原則)に照らして許されるか。
規範
民事訴訟法上の信義則(民訴法2条)に基づき、訴訟の過程で形成された相手方の正当な期待を裏切り、先行する自らの言動と矛盾する態様で防御方法を提出することは、著しく信義に反する場合には許されない。
重要事実
買主(被上告人)が、売買契約の無効・取消・解除を主張して代金返還を求めた(本訴)。これに対し売主(上告人)は、契約は有効であるとして代金支払を求めた(反訴)。買主は、売主の主張を容れて従前の取消・解除の主張を撤回し、代金全額を弁済供託した上で、目的物の引渡等を求めた(再反訴)。ところが売主は、一転して自ら否認していた「買主による取消・解除」の事実を抗弁として主張し、契約の失効を理由に引渡を拒んだ。
事件番号: 昭和46(オ)1127 / 裁判年月日: 昭和47年9月7日 / 結論: 棄却
売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。
あてはめ
売主は、買主による取消・解除の主張を当初から一貫して争い、契約の有効を前提に代金支払を求めていた。買主はこの売主の態度に応じて主張を撤回し、代金支払という自己の義務を完全に履行した上で引渡を請求した。それにもかかわらず、売主が後になって、自ら否認していたはずの取消・解除を理由に契約の効力を争うことは、買主の信頼を著しく裏切る矛盾した態度であるといえる。このような態度は訴訟上の信義則に著しく反する。
結論
売主が再反訴請求を拒むために、かつて自ら否認した取消・解除の事実を主張することは、信義則上許されない。
実務上の射程
訴訟上の禁反言が認められる典型例である。相手方の態度変更により不利益を被る当事者が、相手方の主張の矛盾を突く際の規範として利用できる。特に「相手方の主張に沿って自己の主張を変更・撤回し、義務を履行した」という事情がある場合に、相手方によるさらなる『変節』を封じる論理として機能する。
事件番号: 昭和63(オ)924 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: 棄却
未成年者甲の後見人に就職した乙及び丙が甲を代理して売買契約を締結した場合において、乙及び丙は甲の実親であり、甲の養父の死亡により戸籍上甲の後見人に就職した旨記載され、ともに正当な後見人となったものと考えて、甲の財産を管理してきたもので、右売買に右両名が後見人として関与したことにより、甲の利益が損なわれたわけではなく、甲…
事件番号: 昭和49(オ)331 / 裁判年月日: 昭和51年9月30日 / 結論: 棄却
農地の買収処分を受けた甲が、その売渡を受けた乙に対し、乙から右農地を買い戻したことを原因として所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、請求棄却の判決を受け、これが確定したのち、更に、買収処分の無効を原因として乙及びその承継人に対し、売渡による所有権移転登記及びこれに続く所有権移転登記の抹消に代わる所有権移転登記手続請求の訴…
事件番号: 昭和47(オ)1007 / 裁判年月日: 昭和50年1月31日 / 結論: 棄却
債務者所有の不動産が譲渡担保とされ所有権移転請求権保全の仮登記がされたというだけでは、いまだ債務者において右不動産の不法占有者に対する明渡及び賃料相当損害金の請求が許されないわけではない。
事件番号: 昭和57(オ)452 / 裁判年月日: 昭和58年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の売買の遡及的合意解除がされた場合、買主から右不動産を取得したが対抗要件としての登記を経由していない者は、たとえ仮登記を経由したとしても、民法五四五条一項但書にいう「第三者」として保護されない。