農地の買収処分を受けた甲が、その売渡を受けた乙に対し、乙から右農地を買い戻したことを原因として所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、請求棄却の判決を受け、これが確定したのち、更に、買収処分の無効を原因として乙及びその承継人に対し、売渡による所有権移転登記及びこれに続く所有権移転登記の抹消に代わる所有権移転登記手続請求の訴を提起した場合において、甲が、前訴においても、買収処分が無効であり、右買戻の契約は買収処分の無効による農地返還を実現する方法として締結したものであると主張していて、後訴が実質的に前訴のむし返しであり、かつ、前訴において後訴の請求をすることに支障はなく、更に、後訴提起時は買収処分後約二〇年を経過していた等判示の事情があるときは、甲の後訴の提起は、信義則に反し許されない。
前訴と訴訟物を異にする後訴の提起が信義則上許されないとされた事例
民法1条2項,民訴法第2編第1章
判旨
訴訟物を異にする別訴の提起であっても、実質的に前訴の蒸し返しといえる場合、信義則(民訴法2条)に照らして却下または棄却されるべきである。
問題の所在(論点)
訴訟物を異にする後訴の提起が、既判力の範囲外であっても、民事訴訟法上の信義則に反し許されないとされる場合があるか。
規範
前訴と後訴で訴訟物を異にする場合であっても、(1)後訴が実質的に前訴の蒸し返しといえること、(2)前訴において後訴の主張をすることに支障がなかったこと、(3)後訴を認めることが相手方の地位を不当に長く不安定な状態に置くことになること、といった事情が認められるときは、信義則に照らして当該後訴の提起は許されない。
重要事実
上告人Aは、本件土地の売渡処分につき、自らを譲受人とする売買契約(実質は和解)に基づく移転登記請求訴訟(前訴)を提起したが、請求棄却判決が確定した。その後、Aを含む上告人らは、前訴の基礎となった買収処分の無効を理由とする登記抹消・移転請求等の訴え(本訴)を提起した。Aは前訴においても一貫して買収処分の無効を主張しており、本訴の請求を前訴ですることに支障はなかった。また、本訴提起は買収処分から約20年が経過していた。
事件番号: 昭和50(オ)767 / 裁判年月日: 昭和51年3月23日 / 結論: 棄却
甲が、本訴及び反訴における乙の主張に沿つて、売買契約の解除、取消の主張を撤回し、右契約上の義務を履行したうえ、乙に対し売買の目的物の引渡等を求める再反訴を提起した後に、乙がさきに自ら否認した右解除、取消の主張を再反訴請求を争うための防禦方法として提出することは、訴訟上の信義則に反し許されない。
あてはめ
本訴は、前訴と訴訟物を異にするものの、買収処分の無効を前提とした土地の取戻しを目的とする点で共通しており、実質的には前訴の蒸し返しといえる。また、上告人Aは前訴で買収処分無効を主張していたことから、本訴の請求を前訴で行うことに特段の支障はなかった。さらに、買収処分から20年が経過した時点での提訴は、売渡を受けた者及びその承継人の地位を不当に長く不安定な状態に置くものである。したがって、本訴の提起は信義則に照らし許されない。
結論
本件訴えの提起は信義則に反し許されない。よって、上告を棄却する。
実務上の射程
既判力が及ばない場面(訴訟物が異なる、または当事者が一部異なる場合)において、実質的な紛争の蒸し返しを封じるための「信義則による訴権の制限」のリーディングケースとして活用される。判決文では門前払い(却下)か棄却かの判別は不明確だが、実務上は訴え却下(訴えの利益の欠如または濫用)として扱う構成が有力である。
事件番号: 昭和57(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和59年1月19日 / 結論: その他
原告が、前訴において、登記原因たる贈与の事実を否定して所有権移転登記の抹消登記手続を求め、負担付贈与契約の成立を理由とする請求棄却の判決を受けた場合に、右贈与の負担である生活費の支払が前訴係属以前から行われていないときであつても、右判決の確定後の不履行を理由に贈与契約を解除して右不動産につき所有権移転登記手続を求める後…
事件番号: 昭和29(オ)431 / 裁判年月日: 昭和31年4月3日 / 結論: 棄却
不動産が譲渡担保に供せられたが、被担保債権はいまだ消滅していないという理由で、原告の所有権移転登記の請求を排斥した判決に対し、右不動産は単純に買い受けたもので譲渡担保に供されたものでないと主張してなされた被告からの上告は利益を欠くものである。
事件番号: 昭和38(オ)529 / 裁判年月日: 昭和39年10月27日 / 結論: 破棄差戻
株主が株金払込のために他より借り受けた借入金債務につき会社自体が弁済の責に任ずることは、異例に属するから、これに伴う求償関係について何ら審理を尽さず、漫然右事実を認定した点に理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和32(ヤ)7 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】再審の訴えにおいて、主張される事実が民事訴訟法(旧法)420条1項所定の再審事由のいずれにも該当しない場合には、当該再審の訴えは不適法として却下される。 第1 事案の概要:再審原告は、最高裁判所の確定判決に対し、別紙記載(本判決文上は省略)の事由を根拠として再審の訴えを提起した。再審原告が主張した…