不動産が譲渡担保に供せられたが、被担保債権はいまだ消滅していないという理由で、原告の所有権移転登記の請求を排斥した判決に対し、右不動産は単純に買い受けたもので譲渡担保に供されたものでないと主張してなされた被告からの上告は利益を欠くものである。
勝訴の当事者と上告の利益
民訴法第3編第2章(393条の前)
判旨
不動産所有権に基づく登記請求訴訟の判決の既判力は、訴訟物である登記請求権の存否にのみ及び、理由中の判断である所有権の帰属には及ばない。したがって、登記請求を棄却された勝訴当事者が、理由中の所有権等に関する認定を不服として上告することは、上告の利益を欠き許されない。
問題の所在(論点)
判決の主文で勝訴した当事者が、判決理由中の判断(所有権の存否等)を不服として上告を申し立てることができるか。換言すれば、不動産登記請求訴訟の既判力が理由中の所有権の判断に及ぶか、および上告の利益の有無が問題となる。
規範
上告の利益は、原則として原判決の主文によって不利益を受けた場合に認められる(形式的不服説)。また、判決の既判力(民事訴訟法114条1項)は、主文に包含されるもの、すなわち訴訟物たる権利関係の存否についての判断にのみ生じ、判決理由中の判断には生じない。そのため、勝訴した当事者が判決理由中の判断に不服があるとしても、将来の別訴等で当該判断に拘束されることはないため、特段の事情がない限り上告の利益は認められない。
重要事実
被上告人が上告人に対し、(イ)譲渡担保消滅を理由とする不動産所有権移転登記請求、(ロ)抵当権設定登記抹消請求を行い、上告人が(ハ)不法行為に基づく損害賠償の反訴を提起した事案である。原審は、(イ)について、債務が未弁済であり担保権は消滅していないとして請求を棄却したが、理由中で譲渡担保権の設定事実を認定した。これに対し、本訴請求を棄却された(勝訴した)上告人が、理由中の所有権帰属等に関する判断を不服として上告を申し立てた。
事件番号: 昭和28(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件上告は、民事上告事件の審判の特例に関する法律の規定する上告理由のいずれにも該当せず、法令の解釈に関する重要な主張も含まないため、棄却されるべきである。 第1 事案の概要:上告人らが原判決を不服として最高裁判所へ上告を申し立てた事案であるが、提出された上告理由の内容についての具体的な事実は判決文…
あてはめ
所有権に基づく登記請求の訴えにおいて、既判力が生じるのは訴訟物たる登記請求権の存否に限定され、その前提となる所有権の帰属という理由中の判断には既判力は及ばない。本件の上告人は、(イ)の登記請求について請求棄却という勝訴判決を得ており、理由中で自己に不利な所有権認定がなされても既判力による拘束を受けない。したがって、将来別の訴訟において所有権の帰属を争うことが可能である以上、あえて本件で判決理由を攻撃して上告することは、上告の前提たる利益を欠くといえる。
結論
本件上告は上告の利益を欠くため、棄却されるべきである。
実務上の射程
民事訴訟法における既判力の客観的範囲(114条1項)の基本判例である。答案上は、理由中の判断に既判力が生じないことの根拠として引用する。また、形式的不服説の帰結として、勝訴当事者による理由不服の上告を否定する際の標準的な判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和29(オ)464 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件不動産の所有権移転登記が寄託の趣旨でなされたとの主張に対し、原審がそのような事実を認定していない以上、その前提を欠く論旨は上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産の所有権移転登記が「寄託」の意味でなされたものであると主張し、原判決の判断を不服として上告した。しかし、…
事件番号: 昭和28(オ)533 / 裁判年月日: 昭和31年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が明示的に事実を主張していない場合であっても、証拠の申出や弁論の全趣旨から、その事実を主張する意思が認められるのであれば、裁判所は当該事実を認定して判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:上告人が被上告人に対し請求を行った事案において、被上告人は解除権の留保およびこれに基づく契約解…
事件番号: 昭和31(オ)172 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記は物権変動の対抗要件にすぎず、第三者が登記名義を有しない実体上の所有者を認め、登記名義人への権利帰属を否認することは妨げられない。また、未登記不動産の譲受人が直接自己名義で行った所有権保存登記は、現在の権利状態と符合する限り有効である。 第1 事案の概要:本件土地は実質的にA1の所有であ…
事件番号: 昭和30(オ)573 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言…