原告が、前訴において、登記原因たる贈与の事実を否定して所有権移転登記の抹消登記手続を求め、負担付贈与契約の成立を理由とする請求棄却の判決を受けた場合に、右贈与の負担である生活費の支払が前訴係属以前から行われていないときであつても、右判決の確定後の不履行を理由に贈与契約を解除して右不動産につき所有権移転登記手続を求める後訴を提起することは、前訴において仮定的に右契約の解除を主張することが容易であつたとか、それが期待されていたとはいい難く、かつ、後訴提起までは右贈与契約成立時から四年余、前訴確定時から約一〇か月の期間しか経過していないなど判示のような事情のもとにおいては、信義則に違反するものとはいえない。
不動産について登記原因たる贈与を否定して所有権移転登記の抹消登記手続を求める前訴を提起して敗訴した者が右贈与の負担の不履行を理由に贈与契約を解除したとして所有権移転登記手続を求める後訴を提起した場合において後訴の提起は信義則に違反するものとはいえないとされた事例
民法1条2項,民訴法第2編第1章訴
判旨
前訴で贈与の不存在を主張して敗訴した者が、後訴で当該贈与の有効を前提に負担不履行による解除を主張することは、前訴での予備的主張が容易であった等の事情がない限り、信義則に反しない。
問題の所在(論点)
前訴で契約の不成立を主張して敗訴した者が、後訴において当該契約の有効を前提としつつ、前訴判決後に生じた解除事由に基づき請求をすることが、信義則に反し許されないか。
規範
前訴と後訴で訴訟物が異なる場合であっても、前訴の訴訟継続中に後訴の請求根拠となる事実を仮定的抗弁や訴えの追加的変更の形で主張することが容易であり、かつ、紛争の早期解決の観点からそれが期待されていたといえる事情がある場合には、後訴の提起が信義則(民事訴訟法2条)に照らし許されないことがあり得る。しかし、前訴判決の判断を前提として新たな解除原因に基づき請求を行う場合は、実質的な蒸し返しとはいえず、原則として信義則違反には当たらない。
事件番号: 昭和49(オ)331 / 裁判年月日: 昭和51年9月30日 / 結論: 棄却
農地の買収処分を受けた甲が、その売渡を受けた乙に対し、乙から右農地を買い戻したことを原因として所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、請求棄却の判決を受け、これが確定したのち、更に、買収処分の無効を原因として乙及びその承継人に対し、売渡による所有権移転登記及びこれに続く所有権移転登記の抹消に代わる所有権移転登記手続請求の訴…
重要事実
上告人は、被上告人らに対し本件物件を贈与していないと主張して抹消登記請求(前訴)を提起したが、贈与の事実が認定され敗訴確定した。前訴では、贈与に際し生活費支払の負担があったが、上告人が贈与を否定したため支払が停止されていた事実が認定されていた。上告人は、前訴確定後に負担である生活費の支払を催告したが履行がなかったため、負担付贈与契約を解除し、原状回復として移転登記請求(本訴)を提起した。原審は、前訴で解除の主張を併合提起することが容易かつ期待されていたとして、本訴を信義則違反により却下した。
あてはめ
本訴は前訴判決の判断を前提に、その後の負担不履行を理由とするものであり、当然に蒸し返しとはいえない。上告人において、前訴中に贈与成立を予見してあらかじめ解除の主張を準備しておくことが容易であったとはいえず、また被上告人らの信頼が保護されるべき状況にもない。さらに、被上告人らは前訴確定後も負担義務を履行しておらず、前訴確定から本訴提起まで約10か月しか経過していない。これらによれば、被告らの法的地位を不当に長く不安定にさせたとはいえず、信義則に反する事情は認められない。
結論
本訴提起が信義則に違反するとした原判決には民事訴訟法の解釈適用の誤りがある。本訴は適法であり、審理を差し戻すべきである。
実務上の射程
既判力の抵触はないが信義則(失権効的側面)が問題となる場面。前訴の主張と矛盾する後続の主張であっても、前訴の判断を前提とする場合や、前訴での予備的主張の期待可能性が低い場合には、訴権の濫用とはならない。答案上は、訴訟物の違いを確認した上で、信義則適用の厳格な要件(期待可能性や信頼の相当性)を検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和26(オ)813 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事情変更の原則が適用されるためには、契約成立当初の法律上の効果をそのまま発生・維持させることが著しく信義衡平に反する場合であることを要する。 第1 事案の概要:上告人は、契約成立後の事情変更(詳細は判決文からは不明)により、当初の契約の効力を維持することが不当であると主張して上告した。原審は、当該…
事件番号: 昭和36(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和37年4月27日 / 結論: 棄却
上告理由として原審に提出した準備書面を引用するというだけの部分は、適式な上告理由書とならない。(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)
事件番号: 平成4(オ)1929 / 裁判年月日: 平成6年3月22日 / 結論: 棄却
売主が手付けの倍額を償還して売買契約を解除するためには、買主に対して右額の現実の提供をすることを要する。
事件番号: 昭和32(オ)471 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】信義則(民法1条2項)および禁反言の法理の適用について、原判決の認定した事実関係に照らせば、その主張を排斥した判断は正当である。具体的判決文からは詳細な事実や法的構成は示されていないが、信義則違反の成否は確定した事実関係に基づき判断される。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の認定した事実関係が信…