売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。
売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務と同時履行
民法96条,民法121条,民法533条,民法546条
判旨
詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、両当事者が負う原状回復義務は、民法533条を類推適用して同時履行の関係に立つ。この理は、詐欺に関与した相手方に対する代金返還義務と、目的物の登記抹消・移転義務との間でも維持される。
問題の所在(論点)
売買契約が詐欺により取り消された場合において、買主の「土地登記を抹消・移転する義務」と、売主の「受領済み代金を返還する義務」との間に、同時履行の関係(民法533条類推適用)が認められるか。
規範
契約が取り消されたことによって生じる当事者双方の原状回復義務(民法121条の2第1項)は、公平の観点から、民法533条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきである。
重要事実
上告人(売主)は、代理人Dの「代金を運用し利息を得るべき」との欺罔により、被上告人(買主)との間で本件土地の売買契約を締結した。Dの真意は自己の借金返済に充てることにあり、被上告人も上告人が欺かれていることを知りながら契約を締結し、Dに代金100万円を支払った。その後、詐欺を知った上告人が契約を取り消し、被上告人に対し登記の抹消等を求めた事案である。
事件番号: 昭和36(オ)644 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権消滅後に、元代理人が従前の代理権の範囲を超えた行為をした場合、民法112条(代理権消滅後の表見代理)と110条(権限外の行為の表見代理)の法理を重ねて適用し、相手方がその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、本人はその責を負う。 第1 事案の概要:上告人の養父Eは、上告人の承諾を得て土…
あてはめ
本件では、代理人Dの詐欺を理由に売買契約が有効に取り消されている。これにより、被上告人は上告人に対し、本件土地の仮登記抹消および所有権移転登記手続をなす義務を負い、他方で上告人は被上告人に対し、受領した代金100万円の返還義務を負う。これらの義務は、双務契約が解消された際の公平な清算を目的とするものであるから、民法533条の類推適用により、引換給付の関係に立つといえる。なお、被上告人が詐欺の事実を知っていたとしても、直ちに不法原因給付等に該当して返還請求が否定されるものではない。
結論
上告人の代金返還義務と、被上告人の登記手続義務は同時履行の関係に立つため、被上告人は代金100万円の支払を受けるのと引き換えに登記手続を行えば足りる。
実務上の射程
契約の無効・取消しに伴う原状回復義務全般に及ぶ。特に、相手方に帰責性がある場合(詐欺の悪意など)であっても、公平の観点から同時履行の関係を認める実務上の確立した基準として活用できる。
事件番号: 昭和43(オ)946 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
親権者が第三者から金員を借り受けるにあたり、その未成年の子が連帯債務を負担し、また、同債務を担保するため、その子の不動産につき、代物弁済の予約、停止条件付賃借権の設定をなし、さらに、右代物弁済の予約完結の意思表示により右不動産の所有権が第三者に移転したことを即決和解または私法上の和解契約において確認する行為は、民法八二…
事件番号: 昭和52(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和54年2月22日 / 結論: 棄却
仮登記担保関係において、債権者が履行遅滞を理由に代物弁済予約の完結の意思表示をし、目的不動産につき予め交付を受けていた登記に必要な書類を利用して仮登記に基づく所有権移転登記を経由した場合でも、清算義務を負うときは、債務者は、清算金の提供を受けるまでは債務を弁済して目的不動産を取り戻すことができる。
事件番号: 昭和43(オ)1167 / 裁判年月日: 昭和44年9月11日 / 結論: 棄却
譲渡令による強制譲渡手続が譲渡令書の未交付の状態において譲渡令が廃止され、農地法が施行された場合は、該強制譲渡の手続を受け継ぐ手続は、農地法施行法一三条による農地法一五条およびこれに関連する法令による手続である。
事件番号: 昭和50(オ)767 / 裁判年月日: 昭和51年3月23日 / 結論: 棄却
甲が、本訴及び反訴における乙の主張に沿つて、売買契約の解除、取消の主張を撤回し、右契約上の義務を履行したうえ、乙に対し売買の目的物の引渡等を求める再反訴を提起した後に、乙がさきに自ら否認した右解除、取消の主張を再反訴請求を争うための防禦方法として提出することは、訴訟上の信義則に反し許されない。