権利能力なき社団又は財団としての実態をも有しない団体の名目的な代表者となることを、その団体の事業を専行処理している甲に対して許諾したにすぎない乙は、甲が右団体名義で第一者とした取引につき、その取引の実質は乙と右第三者との取引に等しいものであることが甲と右第三者との間において了解されていたというような特段の事情のない限り、民法の表見代理に関する規定及び商法二三条の規定の類推適用によつて右取引についての責任を負うものではない。
団体の名目的な代表者となることを団体の事業を専行処理している他人に許諾した場合におしてその他人が団体名義で第三者とした取引と民法の表見代理に関する規定及び商法二三条の規定の類推適用の有無
民法109条,民法110条,民法112条,商法23条
判旨
実態のない団体の名目的な代表者就任を許諾した者は、取引の実質が本人と相手方との直接取引であると了解されていた等の特段の事情がない限り、表見代理や名板貸責任を負わない。
問題の所在(論点)
権利能力なき社団としての実態すら欠く団体の名目的代表者に対し、表見代理(民法110条等)や名板貸(商法23条)の規定を類推適用して、取引上の責任を追及できるか。
規範
法人格も権利能力なき社団の実態も有しない団体の名目的な代表者就任を許諾したにすぎない者は、原則として、当該団体名義でなされた取引について表見代理(民法110条等)や名板貸(商法23条)の規定を類推適用して責任を負わされることはない。ただし、当該団体に実態がなく、その実質は名目的代表者と相手方との直接取引に等しいことが、行為者と相手方との間で明示的又は黙示的に了解されていた等の特段の事情がある場合には、その責任を負いうる。
重要事実
Eは法人設立を計画し「D協会」と称して活動していたが、実態は伴わず権利能力なき社団にも該当しなかった。上告人はEに依頼され、協会の名目的な会長に就任することを承諾し、挨拶文の作成や紹介状の交付等の協力をしていたが、運営はすべてEに任せていた。Eは被上告人に対し、上告人が代表者であると信じさせて映画製作の請負契約を締結した。その後、協会が経営破綻したため、被上告人は名目的代表者である上告人に対し、請負代金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
本件団体は実態を欠くものであり、上告人は名目的な就任を許諾したにすぎない。表見代理については、上告人とEとの間に基本代理権の授与を認める余地がない。また、名板貸責任については、相手方の信頼は「団体」に対するものにとどまり、「上告人個人」との取引を意図したものとはいえない。したがって、取引が実質的に上告人と相手方との直接取引であると了解されていたような特段の事情がない限り、上告人に責任を負わせることは各規定の趣旨を逸脱する。原審はかかる特段の事情を検討せずに責任を認めており、審理不尽といえる。
結論
特段の事情がない限り、上告人は表見代理や名板貸の規定により責任を負うことはない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
実態のない「幽霊団体」の名目的代表者の責任を否定した重要判例である。答案上は、まず形式的な適用が困難であることを論じ、次に「取引の主体が誰であったか」という信頼の対象の観点から類推適用の可否を検討する際の枠組みとして用いる。特に「実質的に個人対個人の取引といえるか」という特段の事情の有無が、責任肯定のための核心的要素となる。
事件番号: 昭和28(オ)503 / 裁判年月日: 昭和30年7月15日 / 結論: 棄却
庶務課長の命を受けて同課長と共に所管事項につき支店長を補佐する事実上の行為をする権限を有するにすぎない会社支店の庶務係長は、商法第四二条にいう「営業ノ主任者タルコトヲ示スヘキ名称ヲ附シタル使用人」にはあたらない。