ある契約が甲乙間に成立したものと主張して、右契約の履行を求める訴が提起される場合に、裁判所が右契約は甲の代理人と乙との間になされたものと認定したとしても、弁論主義に反するとはいえない。
契約が代理人によつてなされたとの主張の要否。
民訴法第1編第4章第1節,民訴法185条,民訴法186条
判旨
民事訴訟法における処分権主義(186条、現246条)の「事項」とは訴訟物を指し、弁論主義の観点から契約が本人間か代理人間かの認定の相違は判決の基礎として許容される。
問題の所在(論点)
1.民事訴訟法186条(現246条)の「事項」の範囲。2.当事者が本人による契約締結を主張した場合に、裁判所が代理人による締結を認定することが弁論主義または処分権主義に抵触するか。
規範
民事訴訟法第186条(現行第246条)にいう「事項」とは、訴訟上の請求、すなわち訴訟物を意味する。また、法律関係の発生原因となる事実について、当事者が本人による合意を主張した場合であっても、裁判所が代理人による合意を認定することは、法律効果に差異がない限り、弁論主義に反しない。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)との間で黒砂糖の買受けを斡旋する合意をし、これに基づき斡旋料4万3000円を請求した。被上告人は本人同士の特約を主張したが、原審は被上告人と上告人の代理人との間で当該契約が締結された事実を認定し、支払いを命じた。これに対し上告人が、申立てのない事項について判決した点や弁論主義違反を理由に上告した事案である。
あてはめ
まず、処分権主義の対象となる「事項」は訴訟物たる斡旋料支払請求権であり、原審はこれに基づいて判決しているため、186条違反はない。次に、弁論主義との関係では、契約が当事者本人によってなされたか、その代理人によってなされたかは、契約の成立という法律効果に変わりをもたらすものではない。したがって、主張と認定の間に代理人の介在という差異があっても、主要事実の範囲内での評価の相違にすぎず、判決の基礎とすることは許される。
結論
原判決に処分権主義・弁論主義違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
処分権主義の対象を訴訟物レベルで捉える判例。実務上、契約の締結主体(本人か代理人か)の認定の齟齬は、請求の同一性を失わせるものではなく、不意打ちにならない限り弁論主義違反とはならないとする理論構成の論拠となる。
事件番号: 昭和35(オ)577 / 裁判年月日: 昭和36年9月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人自ら契約を締結したとの主張に対し、裁判所が代理人によって締結されたと認定することは、処分権主義に反せず、弁論主義の範囲内として許容される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が、上告人(被告)との間で金銭消費貸借契約が成立したと主張し、その残額の支払を求めて提訴した。これに対し、裁判所は、当該…