割引手形の買戻請求権行使後の手形所持人は、割引依頼人の買戻債務が発生しても現実に履行されるまでは同時履行の抗弁権によりその手形を保有することができ、現実に支払を受けるまでは手形の正当な所持人として一切の権利を行使することができる。
手形割引依頼人に対する買戻請求権の行使と手形債務者に対する権利の行使との関係
手形法43条,手形法77条
判旨
割引手形の買戻請求権を行使した銀行は、買戻債務が現実履行されるまでは同時履行の抗弁権に基づき手形を保有でき、手形上の権利を適法に行使し得る。
問題の所在(論点)
割引手形の買戻請求権を行使した後、買戻債務が履行される前において、銀行は依然として手形上の権利を行使できる正当な所持人としての地位を有するか。また、その状態での振出人による支払は有効な弁済となるか。
規範
銀行が割引依頼人に対し割引手形の買戻請求権を行使した場合であっても、買戻債務が現実に履行されるまでは、銀行は同時履行の抗弁権に基づき当該手形を適法に保有し続けることができる。また、その間、銀行は手形の正当な所持人として、手形振出人等の債務者に対して手形法上の一切の権利を行使することが可能であり、振出人による支払は有効な自己債務の弁済となる。
重要事実
銀行(被上告人)が顧客(上告人)との間で手形割引取引を行い、その際、一定の事由が生じた場合に銀行が買戻請求権を行使できる旨の約定を交わしていた。その後、銀行が約定に基づき買戻請求権を行使したが、顧客から現実の支払(買戻債務の履行)はなされていなかった。この状況下で、銀行が手形振出人から手形金の支払を受けたこと、および本件定期預金債権に設定された質権の有効性が争点となった。
事件番号: 昭和33(オ)689 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 破棄差戻
一 約束手形の裏書人たる破産者が被裏書人から手形を受け戻すにつき手形金額の支払をした場合には破産法第七三条第一項は類推適用のされない。 二 破産法第七三条第一項にいう「手形ノ支払」とは、約束手形にあつては振出人の支払を指し、「債務者ノ一人又ハ数人ニ対スル手形上ノ権利」とは、手形所持人の前者に対する遡及権を指すにほかなら…
あてはめ
本件では、銀行と顧客との間に買戻に関する約定が存在し、銀行はこれに基づき適法に買戻請求権を行使している。もっとも、顧客による買戻債務の履行が現実になされていない以上、銀行は同時履行の抗弁権によって手形を留置する権限を有する。この留置的効力が及ぶ期間内において、銀行はなお「手形の正当な所持人」であり、手形上の権利行使が否定される理由はない。したがって、手形振出人が銀行に対して行った支払は、振出人自身の債務を消滅させる有効な弁済に該当すると解される。
結論
割引手形の買戻請求権行使後も、現実に支払を受けるまでは銀行は手形の正当な所持人として一切の権利を行使でき、振出人の支払は有効である。
実務上の射程
手形割引の法的性質を売買(債権譲渡)と解する実務慣行を前提に、買戻請求権の行使が直ちに手形権利の復帰(顧客への移転)を意味するのではなく、現実の決済(代金支払)との引換関係にあることを確認した判例である。答案上は、買戻請求権行使後の銀行の法的地位や、二重弁済の危険性を否定する文脈で使用できる。
事件番号: 昭和58(オ)1406 / 裁判年月日: 昭和63年3月15日 / 結論: 棄却
一 賃金の仮払を命ずる仮処分の執行後に仮処分命令が控訴審で取り消された場合には、本案訴訟が未確定であり、又は従業員としての地位保全の仮処分が同時に発せられていたときであつても、仮処分債務者は、特段の事情がない限り、仮処分債権者に対し仮払金の返還請求権を取得し、その返還義務の範囲は不当利得の規定に準じてこれを定めるべきで…
事件番号: 昭和43(オ)33 / 裁判年月日: 昭和46年7月1日 / 結論: 棄却
他行小切手による当座預金への入金は、当該小切手の取立委任と、その取立完了を停止条件とする当座預金契約であるから、受入金融機関は、特別の約定がないかぎり、他行小切手の取立完了前においては、当該小切手の金額に見合う当座支払の義務を負わないものと解すべきである。
事件番号: 昭和59(オ)557 / 裁判年月日: 昭和63年10月18日 / 結論: 破棄自判
一 信用金庫法に基づいて設立された信用金庫は、商法上の商人には当たらない。 二 信用金庫取引約定書四条四項は、取引先において信用金庫に対し、取引先がその債務を履行しない場合に、信用金庫の占有する取引先の手形等の取立又は処分をする権限及び取立又は処分によつて取得した金員を取引先の債務の弁済に充当する権限を授与する趣旨であ…