一 賃金の仮払を命ずる仮処分の執行後に仮処分命令が控訴審で取り消された場合には、本案訴訟が未確定であり、又は従業員としての地位保全の仮処分が同時に発せられていたときであつても、仮処分債務者は、特段の事情がない限り、仮処分債権者に対し仮払金の返還請求権を取得し、その返還義務の範囲は不当利得の規定に準じてこれを定めるべきである。 二 賃金の仮払を命ずる仮処分の執行に係る仮払金の返還請求訴訟において、仮処分債権者が本案訴訟で訴求中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出することは許されない。
一 賃金の仮払を命ずる仮処分の執行後に仮処分命令が控訴審で取り消された場合と仮処分債務者の仮払金返還請求権 二 賃金の仮払を命ずる仮処分の執行に係る仮払金の返還請求訴訟と仮処分債権者が本案訴訟で訴求中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁の許否
民法505条,民法703条,民法704条,民訴法198条2項,民訴法199条2項,民訴法231条,民訴法756条ノ2,民訴法760条
判旨
賃金仮払仮処分が取り消された場合、債権者は特段の事情がない限り不当利得の規定に準じて返還義務を負い、その返還請求に対し別訴で係属中の賃金債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されない。
問題の所在(論点)
1. 仮払仮処分が取り消された場合の返還義務の有無および範囲(不当利得における利益現存性の判断)。 2. 別訴で現に係属中の債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することの可否。
規範
1. 賃金仮払仮処分が上級審で取り消された場合、債権者は仮払金と対価的関係に立つ現実の就労等の特段の事情がない限り、不当利得の規定に準じて返還義務を負う。これは地位保全仮処分が併存し、かつ本案訴訟が未確定であっても同様である。 2. 仮払金返還請求権(受働債権)に対し、別訴で現に訴求中の賃金債権(自働債権)をもって相殺する抗弁を提出することは、審理の重複による訴訟不経済、既判力の抵触による法的安定性の阻害、および重複起訴禁止(民訴法231条)の法意に反するため許されない。
事件番号: 平成22(受)1405 / 裁判年月日: 平成23年7月8日 / 結論: 破棄差戻
貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,上記債権を譲渡した業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんにより,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が上記債権を譲り受けた業者に当然に移転する,あるいは,当該…
重要事実
XらはY社による解雇の無効を主張し、賃金仮払および地位保全の仮処分を得て仮払金を受領し、これを労働組合へ贈与した。その後、控訴審にて仮払仮処分が取り消され(地位保全は維持)、YはXらに対し不当利得(仮払金返還請求権)に基づき返還を求めた。Xらは、①仮払金は贈与済みであり利益が現存しない、②別訴で提起中の解雇無効に伴う賃金債権を自働債権として相殺する、と主張した。
あてはめ
1. 仮払仮処分は暫定的な措置にすぎず、取消により給付の根拠が遡及的に消滅するため、原則として返還義務が生じる。金銭受領による利益は一般財産に混入し、他者への贈与は財産処分にすぎないため、利益は依然として現存すると評価される。 2. 仮払金返還請求権は原状回復的性質を有し、これに対し別訴で係属中の賃金債権による相殺を認めると、同一債権の存否について異なる裁判所で審理が重複し、判決の抵触を招くおそれがある。本案訴訟との経緯に照らしても、相殺を認めないことが債権者に酷であるとはいえない。
結論
Xらの返還義務を認め、相殺の抗弁を却下した原審の判断は正当であるとして、上告を棄却した。
実務上の射程
満足的仮処分の取消に伴う原状回復義務が実体法上の不当利得法理によって規律されることを明示した重要判例。特に、別訴係属中の債権を相殺の抗弁に供することを「重複起訴の禁止」の観点から制限する判断枠組みは、民事訴訟法上の重要論点として答案で引用すべきである。
事件番号: 平成11(受)320 / 裁判年月日: 平成13年3月16日 / 結論: 破棄差戻
いわゆる自動継続特約付きの定期預金債権に対する仮差押えの執行がされても,同特約に基づく自動継続の効果は妨げられない。