債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。 (最大判昭和四五年六月二四日民集二四巻六号五八七頁と同趣旨。大塚裁判官が判決に加つているので、裁判集に登載。)
債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力
民法511条
判旨
債権が差し押さえられた際、第三債務者が差押前に取得した反対債権を有していれば、自働債権と受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達することで差押後も相殺が可能である。この理は差押債権者が取立命令を得たか転付命令を得たかによって左右されない。
問題の所在(論点)
民法511条の適用において、差押前に取得された自働債権による相殺が、両債権の弁済期の前後を問わず認められるか。また、差押債権者が転付命令を得ている場合にその効力に影響があるか。
規範
債権が差し押さえられた場合において、第三債務者が債務者に対し反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでない限り、両債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は差押後においても相殺をもって差押債権者に対抗できる。また、差押債権者が取立命令を得た場合と転付命令を得た場合とで、この判断枠組みに差異は生じない。
重要事実
合資会社Dは、被上告人(銀行)との間で期限利益喪失約款付相殺予約を含む消費貸借契約を締結したが、第一回の分割弁済を怠り、特約に基づき期限の利益を喪失した。被上告人はこの貸付金債権を反対債権として、Dの有する預金債権(被差押債権)との相殺を主張した。一方、上告人はDに対する債権に基づき、当該預金債権について差押および転付命令(または取立命令)を得ていたため、銀行による相殺の可否が争われた。
事件番号: 昭和39(オ)1216 / 裁判年月日: 昭和40年4月22日 / 結論: 棄却
破産債権者の相殺権の行使は、破産法第一〇四条の制限に服するのみであつて、同法第七二条各号の否認権の対象となることはないものと解すべきである。
あてはめ
本件では、被上告人が有する自働債権(貸付金債権)は差押前に取得されたものである。債務者Dが弁済を怠ったことで期限利益喪失約款が作動し、反対債権の弁済期が到来して相殺適状に達している。たとえ銀行が十分な物的担保を有していたとしても、相殺権の行使を妨げるものではなく、権利の濫用にも当たらない。差押債権者が転付命令を得たとしても、第三債務者が有する相殺への期待を奪うことはできず、相殺の対抗力は維持されると解される。
結論
第三債務者は、差押後に相殺適状に達した反対債権をもって、差押債権者(転付債権者)に対抗できるため、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
民法511条1項の解釈を確定させた無制限説の立場を再確認するものである。答案上は、差押と相殺の優劣が問題となる場面で、(1)反対債権が差押前に取得されていること、(2)相殺適状に達していること、の2点を示せば足りる。転付命令が発令されている事案であっても、取立命令と同様の枠組みで論じればよい。
事件番号: 昭和39(オ)155 / 裁判年月日: 昭和45年6月24日 / 結論: 棄却
一、債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。 二、銀行…
事件番号: 昭和46(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和50年9月25日 / 結論: 棄却
金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。