金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。
金融機関が手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて転付された預金債権を相殺した場合と手形の返還先
民法468条,民法511条,民訴法601条,手形法39条,手形法50条,手形法77条
判旨
手形貸付債権等を自働債権とし、転付された預金債権を受働債権とする相殺において、相殺の遡及効により転付以前に受働債権が消滅する場合には、転付債権者への手形交付は不要である。
問題の所在(論点)
手形貸付債権等を自働債権とする相殺を、受働債権の転付債権者に対して行う際、相殺の意思表示と同時に手形を交付する必要があるか。また、相殺によって遡及的に消滅した債権の担保手形は誰に返還すべきか。
規範
手形貸付債権等に基づく相殺において、債権者は原則として債務者に手形を交付して相殺すべきであり、受働債権が転付されている場合は転付債権者に交付すべきである。しかし、相殺の遡及効(民法508条)により、受働債権が転付命令の効力発生時より前に遡って消滅する場合には、転付はその効力を生じない。この場合、転付債権者は債権を取得せず、相殺による実質的な出捐者は元の債務者(預金者)となるため、債権者は転付債権者に手形を交付する必要はなく、元の債務者に返還すれば足りる。
重要事実
銀行(被上告人)は、顧客Dに対し手形貸付債権および手形買戻請求権を有していた。一方、Dは銀行に対し預金債権を有していたが、この預金債権は昭和35年8月9日、転付命令により債権者(上告人)へ転付された。銀行は同年8月19日、上告人に対し、上記手形関連債権を自働債権として預金債権と相殺する旨の意思表示をした。なお、両債権は転付前の同年7月28日の時点で相殺適状にあった。
あてはめ
本件では、自働債権と受働債権は昭和35年7月28日に相殺適状にあった。その後同年8月9日に転付命令がなされているが、銀行が同年8月19日に行った相殺の意思表示により、預金債権は相殺適状時に遡って消滅する。その結果、転付命令の対象となる債権が命令発効前に遡及的に消滅したことになり、転付の効力自体が生じない。したがって、転付債権者は債権を有効に取得しておらず、銀行が相殺にあたって上告人(転付債権者)に手形を交付する義務はない。手形は実質的な出捐者であるDに返還すべきである。
結論
被上告人(銀行)による相殺は有効であり、上告人(転付債権者)への手形交付は不要である。上告人の請求は認められない。
実務上の射程
債権差押・転付と相殺の優劣が問題となる場面で、相殺適状が転付命令の送達より前に生じている場合の処理を定めた判例。答案では、民法508条の遡及効により転付の効力が否定される論理を構成した上で、同時履行関係にある手形返還義務の相手方を特定する際に活用する。
事件番号: 昭和46(オ)457 / 裁判年月日: 昭和51年11月25日 / 結論: 棄却
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