破産債権者の相殺権の行使は、破産法第一〇四条の制限に服するのみであつて、同法第七二条各号の否認権の対象となることはないものと解すべきである。
破産債権者のする相殺権の行使は否認権の対象となるか。
破産法104条,破産法72条
判旨
破産債権者による相殺権の行使は、破産法上の相殺禁止規定(旧法104条、現行71条・72条)の制限を受けるのみであり、否認権(旧法72条、現行160条以下)の対象とはならない。
問題の所在(論点)
破産債権者が破産手続外で相殺権を行使した場合において、当該相殺行為そのものが否認権(現行法160条以下、旧法72条)の対象となるか。
規範
破産手続において、破産債権者が破産者に対し債務を負担する場合、破産法は否認権とは別個に相殺権を規定し、破産手続によらずこれを行使することを許容している(相殺権の担保的機能の尊重)。破産債権者は、本来有する相殺権を相手方の破産という偶然の事実によって妨げられるべきではないからである。したがって、破産債権者による相殺の行使は、破産法上の相殺制限規定(現行71条、72条等)に服するのみであり、否認権(現行160条以下)の対象とはならない。
重要事実
銀行(被上告人)は、破産会社に対し、手形が要件欠缺により無効であった場合に手形金額相当の支払義務を負うという約定(本件約定)に基づき、支払請求権を有していた。破産会社に対し債務を負っていた銀行は、破産手続開始前において、本件約定に基づく債権を自働債権、破産会社に対する債務を受働債権として相殺を主張した。これに対し、破産管財人(上告人)は、当該相殺は否認権(旧破産法72条各号)の対象となる行為であり、無効であると主張した。
あてはめ
銀行が相殺に供した債権は、手形が無効な場合に備えた有効な約定に基づくものである。破産法が破産手続によらない相殺を許容しているのは、債権者の相殺に対する期待を保護するためである。本件相殺について、破産法上の相殺禁止条項(旧法104条)に抵触しない限り、それは破産債権者が当然に有する権利の行使といえる。このような相殺権の正当な行使は、債権者平等の原則を修正してでも認められるべき担保的機能の結果であり、詐害行為や偏頗弁済を対象とする否認権の枠組みで判断されるべき事柄ではない。
結論
破産債権者の相殺の行使は、破産法上の相殺制限の規定に服するのみで、否認権の対象とはならないため、本件相殺は有効である。
実務上の射程
相殺権の担保的機能が否認権に優先することを明示した。答案上、破産債権者の相殺が「偏頗弁済」として否認の対象となると主張された場合に、本判例を根拠に「相殺制限規定の成否のみを検討すれば足りる」と論じるために用いる。ただし、相殺自体の行使ではなく、相殺を目的とした債務負担や債権取得(相殺権の創設的行為)については別途、現行法71条・72条(旧法104条)の相殺制限規定により規律される点に留意する。
事件番号: 平成16(受)2134 / 裁判年月日: 平成17年7月11日 / 結論: その他
甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということ…
事件番号: 平成22(受)16 / 裁判年月日: 平成23年12月15日 / 結論: 破棄自判
会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を,法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,同会社の債務の弁済に充当することができる。 (補足意見がある。)
事件番号: 昭和39(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
一 破産債権を有する者が支払の停止または破産の申立があつたことを知つて破産者に対し債務を負担した場合には、破産法第一〇四条第三号本文の相殺制限の規定は類推適用されない。 二 破産債権者の相殺権行使は、否認権の対象とならない。