一、債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。 二、銀行の貸付債権について、債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する右貸付金の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する預金等の債権につき銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、右預金等の債権を差し押えた債権者に対しても効力を有する。
一、債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力 二、相殺に関する合意の差押債権者に対する効力
民法511条,民訴法598条1項
判旨
債権が差し押さえられた場合、第三債務者は、その自働債権が差押え後に取得されたものでない限り、自働債権と受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達すれば差押債権者に対して相殺を対抗できる。
問題の所在(論点)
債権の差押え(民法511条)があった場合、第三債務者が差押え前に取得していた自働債権の弁済期が、差し押さえられた受働債権の弁済期よりも後に到来するときであっても、第三債務者は相殺を差押債権者に対抗できるか。
規範
相殺制度には、対立する債権債務を簡易に決済する機能に加え、受働債権につき担保的機能を有する側面がある。この相殺への期待は、差押えという一方的な事由により否定されるべきではない。民法511条(平成29年改正前)の趣旨は、差押え後に取得された債権による相殺を例外的に禁止することで差押債権者との利益調整を図る点にある。したがって、第三債務者は、差押えより前に取得した債権を自働債権とする限り、自働債権と受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押債権者に対し相殺を対抗できる(無制限説)。
重要事実
国(上告人)は、納税者DのB銀行(被上告人)に対する預金債権を滞納処分として差し押さえた。B銀行は、Dとの間の銀行取引約定に基づき、Dが差押えを受けたことで期限の利益を喪失した貸付金債権を自働債権とし、差し押さえられた預金債権を受働債権として相殺を主張した。これに対し国は、自働債権の本来の弁済期が受働債権の弁済期よりも後に到来する場合、相殺を対抗できないと主張して争った。
あてはめ
第三債務者であるB銀行が自働債権として主張する貸付金債権は、本件差押えより前に取得されたものである。また、Dとの特約(相殺予約)に基づき、差押えの事実が発生したことで貸付金債権の期限の利益が喪失し、預金債権との間で相殺適状が生じている。民法511条は差押え後の債権取得による相殺のみを禁じているに過ぎず、差押え前に取得した債権であれば、弁済期の前後にかかわらず相殺への正当な期待が認められる。本件においてB銀行は適法に相殺適状を現出させており、差押え後であっても相殺の意思表示を行うことで、債権が消滅したことを国に対抗できる。
結論
第三債務者は相殺をもって差押債権者に対抗できる。本件差押えにかかる債権は、相殺により全部消滅したとされる。
実務上の射程
民法511条2項として明文化された現行法下でも、相殺の担保的機能を重視する無制限説の立場を確立したリーディングケースである。答案上は、弁済期の前後を問わない結論に加え、銀行取引約定等の期限の利益喪失条項(相殺予約)の有効性にも言及してあてはめを行うべきである。
事件番号: 昭和45(オ)125 / 裁判年月日: 昭和45年10月23日 / 結論: 棄却
いわゆる不渡異議申立提供金の預託金の返還請求権が手形債権者に転付された場合に、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて被転付債権と相殺することは許される。
事件番号: 昭和41(オ)1236 / 裁判年月日: 昭和45年11月6日 / 結論: 破棄自判
(省略)