いわゆる政治犯罪人不引渡の原則は、未だ確立した一般的な国際慣習法とは認められない。
政治犯罪人不引渡の原則と国際慣習法の成否
憲法98条2項,逃亡犯罪人引渡法2条1号
判旨
政治犯罪人不引渡の原則は確立した一般的国際慣習法ではなく、昭和39年改正前の逃亡犯罪人引渡法も同原則を一般的に規定したものではないため、送還後の処罰の客観的確実性が認められない限り、送還処分は適法である。
問題の所在(論点)
政治犯罪人不引渡の原則が、国内法上の根拠や国際慣習法として、条約に基づかない送還処分を制約する法的効力を有するか。また、その適用に際して必要とされる処罰の蓋然性の程度が問題となる。
規範
1. 政治犯罪人不引渡の原則は、現時点において未だ確立した一般的な国際慣習法であるとは認められない。2. 法律(昭和39年改正前の逃亡犯罪人引渡法)に明文の規定がない限り、条約の有無を問わず同原則が当然に適用されるものではない。3. 送還の適否については、送還先国において政治活動を理由に処罰されることが「客観的に確実」であるか否かによって判断される。
重要事実
韓国籍の上告人が、日本からの送還処分を受けた際、自身が政治犯罪人に該当することを理由に送還の停止を求めた事案。上告人は、政治犯罪人不引渡の原則が国際慣習法として存在すること、および逃亡犯罪人引渡法が同原則を内包していることを主張し、韓国に送還された場合に政治活動を理由に処罰される危険性があると主張した。
事件番号: 昭和34(オ)400 / 裁判年月日: 昭和35年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法務大臣による在留特別許可の付与は自由裁量に属し、在留期間経過後の外国人に対する退去強制手続が人道上極めて残虐で公序良俗に反するとは認められない限り、憲法にも違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、在留許可期間が経過した後も日本国内に在留していた外国人である。これに対し当局が退去強制令書を発付し…
あてはめ
まず、政治犯罪人不引渡の原則は一般的国際慣習法としての成熟に至っておらず、本件行政処分当時の逃亡犯罪人引渡法も、条約の存否にかかわらず一律に政治犯の不引渡しを義務付ける規定を置いていなかった。次に、上告人が韓国に送還された場合にその政治活動を理由に処罰される可能性を検討するに、記録上の証拠に照らしても、処罰されることが「客観的に確実」であるとは認められない。したがって、送還を拒否すべき法的義務は認められない。
結論
政治犯罪人不引渡の原則の適用を認めず、送還処分を適法とした原審の判断は正当であり、本件上告を棄却する。
実務上の射程
国際慣習法の成立要件(一般的慣行と法的確信)の判断基準を示す一例として利用できる。また、行政法における送還処分の裁量や、人権侵害の蓋然性(客観的確実性)の立証レベルを論じる際の参照判例となる。ただし、その後の法改正や国際人権条約(難民条約等)の批准状況を踏まえた修正が必要な点に注意する。
事件番号: 平成17(行ヒ)395 / 裁判年月日: 平成18年10月5日 / 結論: 棄却
法務大臣が出入国管理及び難民認定法49条3項所定の裁決をするに当たり裁決書を作成しなかったことは出入国管理及び難民認定法施行規則(平成13年法務省令第76号による改正前のもの)43条に違反するものであるが,容疑者は退去強制事由があることを争っていないこと,同条は上記裁決をするに当たって経ることが予定されている在留特別許…
事件番号: 平成18(行ツ)135 / 裁判年月日: 平成20年6月4日 / 結論: 破棄自判
1 国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り届出による日本国籍の取得を認めていることによって,認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,遅く…
事件番号: 昭和37(オ)853 / 裁判年月日: 昭和40年12月23日 / 結論: 棄却
外国政府の発給した旅券を所持して現に日本に居住する者が、日本国政府から再入国の許可を受け、再入国に際し入国審査官からその旅券に上陸許可の認印を受けたとしても、適法な入国手続を経ていない以上、右の事実だけによつて在留資格を取得するのではない。
事件番号: 昭和34(オ)41 / 裁判年月日: 昭和35年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】生活の本拠である住所の有無は、居住を継続していたかという客観的な事実に基づき判断され、強制疎開等のやむを得ない事情による離脱であっても、長期間の不在があれば住所を失ったものとみなされる。 第1 事案の概要:上告人は元々日本国籍を有し、神戸市に居住していたが、昭和19年に戦時下の強制疎開のためやむを…