甲が所有して営業に用いている自動車を、その承諾なしに乙が私用のために運転して事故を起こしたが、甲は自動車およびその鍵を容易に持ち出すことができる状態に置いており、乙は、甲と姻族関係にあつて近所に居住し、以前にも数回甲およびその家人から右自動車を借り受けたことがあり、事故当日、乙は、甲の子丙を同乗させてこれと交代で運転していたものであつて、当時の使用は一時的なものでただちに返還することを予定していたなど判示の事実関係のもとにおいては、甲は、右事故につき、自己のため自動車を運行の用に供するものとしての責任を負うべきである。
自動車の所有者と身分関係のある者が私用のため運転中起こした事故につき所有者に運行供用者責任が認められた事例
自動車損害賠償保障法5条
判旨
自動車の所有者が他人に車両を一時的に貸与した場合、借主が所有者の承諾を得ず私用で運転していたとしても、運行支配が失われていたと解される特段の事情がない限り、所有者は「運行供用者」としての責任を負う。
問題の所在(論点)
車両所有者が親族等の第三者に車両を貸与した際、借主が当初の目的や承諾の範囲を超えて私用で運転していた場合に、所有者の「運行支配」が継続しているといえるか。
規範
自賠法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に該当するか否かは、当該車両の運行を支配し、その利益を享受しているか(運行支配および運行利益の有無)によって判断される。車両所有者が他人に一時貸与した場合、客観的に運行支配を喪失したと認められる特段の事情がない限り、運行供用者責任を免れない。
重要事実
砂利・砂の販売業を営む車両所有者Aは、姻族関係にある近隣住民Bに対し、これまでも数回車両を貸し出していた。本件事故の前日、BはAの家人に「妻の実家に行く」と告げて鍵を持ち出し、Aの息子Dを同乗させて走行した。その帰途、Bが私用で運転中に事故を起こした。なお、車両の鍵はAの住居から自由に持ち出し可能で、車庫からの進出も容易な状況であった。
あてはめ
まず、所有者Aは日常的に業務や家族の運転に車両を使用しており、運行の帰属主体である。次に、Bとの関係において、(1)過去に複数回の貸与実績があること、(2)鍵の管理が杜撰で容易に持ち出せたこと、(3)Aの息子が同乗しており家族の関与があること、(4)一時的な使用であり直ちに返還が予定されていたことが認められる。これらの事実に基づけば、Bが一部承諾のない私用運転を行っていたとしても、依然としてAの管理・支配が及んでいたと評価でき、運行支配を失っていたとは解されない。
結論
Aは運行供用者としての責任を負う。Bの私用運転によっても、Aの運行支配は失われていないため、自賠法3条に基づき損害賠償義務を免れない。
実務上の射程
親族間や知人間での「無断運転」に近い事案における運行支配の判断基準として活用される。鍵の管理状況や人的関係、返還予定の有無が重要な考慮要素となる。答案上は、一時的な貸与であれば多少の目的外使用があっても運行支配を肯定する方向に論じる際に有用である。
事件番号: 昭和45(オ)39 / 裁判年月日: 昭和46年11月16日 / 結論: 棄却
甲が乙に自動車を貸し渡し、乙の被用者が運転中に事故を起こした場合において、右貸渡は、自動車の販売会社である甲が、乙に売却した中古車の整備、登録、検査などが済むまでの間、代わりの車を貸してほしい旨乙から依頼され、右売却した自動車を引き渡すのと引換えに返してもらう約束をして、暫定的になされたものであるなど、判示のような事実…