貨物自動車の借主が運転中に事故を起こした場合において、貸主は、右自動車を日常の業務に使用していたが、退職直後の被用者である借主をして、身廻品を実家に運搬して寮を明け渡させる目的をもつて、無償で、かつ、二日後に返還を受ける約束のもとに、運行に関する指示をし、所要の量の約半分のガソリンを与え、貸主の負担で整備を完了したうえ、右自動車を貸与したものであり、借主は、右目的に自動車を使用したのち、これを返還するために運行中であつたなど、原判示の事実関係(原判決理由参照)があるときは、貸主は、自動車損害賠償保障法三条による運行供用者としての責任を免れない。
自動車の借主の運行による事故につき貸主に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例
自動車損害賠償保障法3条
判旨
自動車の所有者が、退職直後の元被用者に対し、寮の明け渡しという所有者の利益にも資する目的のために無償で車両を貸与した場合には、運行支配および運行利益が失われていないため、自動車損害賠償保障法3条の「運行供用者」として責任を負う。
問題の所在(論点)
車両を第三者(元被用者)に無償で貸与し、当該第三者が運転中に事故を起こした場合において、所有者は自賠法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」として損害賠償責任を負うか。特に、貸与に伴う運行支配および運行利益の存否が問題となる。
規範
自動車損害賠償保障法3条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)にあたるか否かは、当該自動車の運行を支配し得る立場にあるか(運行支配)、および当該自動車の運行から生じる利益が自己に帰属するか(運行利益)という二要素を総合的に考慮して判断する。他人に車両を貸与した場合であっても、貸与の目的、期間、態様等に照らし、依然として運行支配および運行利益が及んでいると認められる場合には、運行供用者責任を免れない。
重要事実
上告人(所有者)は、日常の業務に使用していた貨物自動車を、退職直後の被用者Dに貸与した。貸与の目的は、Dが身の回り品を実家に運搬して上告人の所有する寮を明け渡させるという、上告人の管理上の利益にも資するものであった。貸与は無償で、2日後に返還する約束のもとに行われ、上告人は運行に関する指示を与え、ガソリン代の約半分を負担し、車両の整備も完了させた状態で引き渡した。Dは目的を果たした後の返還途中に本件事故を惹起した。
あてはめ
まず、運行目的について、単なるDの個人的便宜だけでなく、上告人の寮を早期に明け渡させるという上告人自身の経営・管理上の目的が含まれている。次に、運行の態様についても、上告人が運行指示を与え、ガソリン提供や車両整備を行っていることから、車両の維持管理権限を保持したまま運行を管理しているといえる。さらに、2日間という短期間の無償貸与であり、返還途中の事故であることから、時間的・空間的にも依然として上告人の支配が及ぶ範囲内での運行であったと評価できる。したがって、上告人は依然として本件自動車に対する運行支配および運行利益を有している。
結論
上告人は、自賠法3条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」としての責任を免れない。
実務上の射程
本判決は、無償貸借(使用貸借)における運行供用者性の判断基準を示した重要判例である。親族間や雇用関係に基づく貸与において、貸主が「何らかの利益(管理上の便宜など)」を得ている場合や、維持管理を継続している場合には、運行供用者性が肯定されやすいことを示唆している。答案上では、運行支配と運行利益を具体的事実から丁寧に認定する際の準拠枠組みとして活用すべきである。
事件番号: 昭和45(オ)39 / 裁判年月日: 昭和46年11月16日 / 結論: 棄却
甲が乙に自動車を貸し渡し、乙の被用者が運転中に事故を起こした場合において、右貸渡は、自動車の販売会社である甲が、乙に売却した中古車の整備、登録、検査などが済むまでの間、代わりの車を貸してほしい旨乙から依頼され、右売却した自動車を引き渡すのと引換えに返してもらう約束をして、暫定的になされたものであるなど、判示のような事実…