無権代理人が、無権代理による契約後にその目的物の共有持分を譲り受けた場合においても、契約の相手方が民法一一七条にいう履行を選択した事実がないときは、右持分に対する部分につき、右契約が有効となるものではない(最高裁昭和三八年(オ)第一〇四一号同四一年四月二六日第三小法廷判決、民集二〇巻四号八二六頁参照)。
無権代理人が無権代理行為の目的物の共有持分を取得した場合における右行為の効力
民法113条,民法117条
判旨
無権代理人が目的物を取得しても、相手方が民法117条に基づき履行を選択しない限り、当然に代理行為が有効となるわけではない。また、不動産の共有者は保存行為として、各自単独で不動産全部についての妨害排除請求をなしうる。
問題の所在(論点)
1. 無権代理人が後日目的物の持分を取得した場合、当然にその範囲で代理行為が有効となるか(民法117条の履行選択の要否)。 2. 共有者の一部のみで、共有不動産に対する不実の登記の抹消を請求できるか(保存行為の成否)。
規範
無権代理人が代理行為の目的物を本人から取得した場合、相手方が民法117条所定の履行を選択したときに限り、相手方と無権代理人との間に当該行為が成立したのと同様の効果を生ずる。また、不動産の共有者は、各自その持分に基づき、保存行為(民法252条ただし書)として、不動産全部についての妨害排除を請求することができ、共有者全員で共同して行う必要はない。
重要事実
無権代理人Dは、本人の実印等を無断で使用して、本人が所有する土地建物に上告人(相手方)のための根抵当権を設定し、その登記を完了させた。その後、Dは本人から当該不動産の共有持分を譲り受けたが、上告人はDに対して民法117条に基づく履行の選択を主張していなかった。本人の相続人(被上告人ら)は、無権代理を理由に、共有者の一部のみで根抵当権設定登記の抹消を求めて提訴した。
事件番号: 昭和40(オ)1002 / 裁判年月日: 昭和41年3月31日 / 結論: 棄却
本人が無権代理人を相続した場合において、被相続人の無権代理行為の相手方に過失があるときは、該行為は右相続により有効となるものではない。
あてはめ
まず、Dが持分を取得した点につき、上告人がDに対し履行の選択(117条)を主張・請求した事実は認められない。したがって、Dが持分を取得したという事実のみをもって、直ちに当該持分について根抵当権設定契約が有効になることはない。次に、保存行為について検討すると、根抵当権設定登記は実体法上の根拠を欠く妨害である。不動産の各共有者は持分権に基づき妨害排除を請求できるため、相続人の一部が単独で抹消請求を行うことは保存行為として適法である。
結論
無権代理人の目的物取得により当然に契約が有効になることはなく、また共有者の一部による妨害排除請求は適法であるため、請求を認容した原判決は正当である。
実務上の射程
無権代理と相続等の類推適用場面において、履行選択を要件とする点を確認する。また、共有持分に基づく妨害排除請求(登記抹消)が「保存行為」として単独で可能であることを示す、民法252条および物権的請求権の基本判例として用いる。
事件番号: 昭和39(オ)77 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
一 登記申請行為自体には、表見代理に関する民法の規定の適用はない。 二 偽造文書によつて登記がされた場合でも、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無…
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…
事件番号: 昭和43(オ)945 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: その他
(省略)
事件番号: 昭和31(オ)956 / 裁判年月日: 昭和35年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の立木を代物弁済として提供する代理権や登記費用の負担特約を締結する権限があるからといって、当然にその土地自体の所有権を移転させる代理権まで認められるものではない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人の代理人Dとの間で、本件山林の立木を債務の代物弁済として供する旨の合意をし、立木の所有権保存…