賃貸建物に隣接する賃貸人所有建物が賃貸建物に倒れかかり危険なため、賃貸人において大工に依頼し補強工事をするにあたり、賃貸建物内にある賃借人所有の品物を一時搬出しなければ作業ができないため、賃借人にこれを告げて搬出方の協力を求めたが、賃借人においてこれに応じないため右補強工事をなしえなかつたとの判示事情があるときは、賃貸人はその負担する義務の履行につき準備をととのえて債権者である賃借人の協力を求めたもので、その債務の履行を提供したものとして、以後債務不履行の責を免れる。
賃貸人の賃借人に対する賃貸物を使用収益させる義務につき民法四九二条を適用し賃貸人が債務不履行の責を負わないとされた事例
民法492条,民法493条
判旨
債務の履行に債権者の協力が必要な場合、債務者が履行の準備を整えて協力を求めたにもかかわらず債権者がこれを拒んだときは、債務者は債務不履行の責任を負わない。
問題の所在(論点)
債務の履行に債権者の協力が必要な場合において、債権者が協力を拒絶したときに、債務者は債務不履行責任(修繕義務違反)を免れるか。
規範
債務の性質上、債権者の協力がなければ給付を完了できない場合、債務者が自らなしうる履行の準備を整えて債権者の協力を待つべきである。債務者が債務の本旨に従った履行の準備をなし、債権者の協力を求めたにもかかわらず、債権者がこれを拒んで給付を完了できないときは、債務者は債務不履行の責任を負わない(民法493条、492条)。
重要事実
賃借人(上告人)は、隣接する賃貸人(被上告人)所有の建物が賃借物件に倒れかかり危険であるとして除去を求めた。賃貸人が調査したところ、建物の補強工事により危険を除去できることが判明したが、工事には賃借物件内の荷物を一時搬出する必要があった。賃貸人が賃借人にその旨を告げて協力を求めたが、賃借人は建物の解体のみを主張して荷物の搬出に応じず、補修ができなかった。
あてはめ
賃貸人は、大工に調査を依頼して補修方法を確定させ、修繕義務の履行に必要な準備を整えていた。また、工事のために不可欠な荷物の搬出という協力を賃借人に求めていた。これに対し、賃借人は合理的理由なく解体を主張して協力を拒んだものである。したがって、賃貸人は債務の本旨に従った履行の提供(民法493条但書)をしたといえ、その後の履行不能または遅滞について債務不履行責任を負わない。また、このような状況下では、賃貸人が信義則上の修繕義務を負うこともない。
結論
賃貸人は履行の提供をなしたものといえ、債務不履行責任を負わない。
実務上の射程
受領遅滞や履行の提供が債務不履行責任の成否に与える影響を論じる際の規範として活用できる。特に、賃貸人の修繕義務のように賃借人の協力(入室許可や荷物移動)が不可欠な事案において、債務不履行責任を否定する有力な根拠となる。
事件番号: 昭和49(オ)598 / 裁判年月日: 昭和52年3月31日 / 結論: 破棄差戻
履行不能における債務者の責に帰すべからざる事由とは、債務者に故意・過失がないか、又は債務者に債務不履行の責任を負わせることが信義則上酷に失すると認められるような事由をいう。