訴訟代理人である弁護士が、所属弁護士会の規則に従い同会を受送達場所、送達受取人と定めて届出ていたところ、同会の送達部から送付を受けた第一審判決正本に「昭和四四年九月二四日受送達」の旨ゴム印が押捺されていたので、同日から二週間内である同年一〇月八日控訴を提起したが、実際は、弁護士会が執行官から右正本の交付を受け送達の効力が生じた日は同年九月二二日であつたため、右控訴提起が控訴期間経過後のものとされる場合に、従来、右送達部においては、執行官から送達書類を受領した日時ではなく、受送達者本人に右書類を送付する手続を終つた日時をもつて送達の日時とする慣行であり、右正本の送達日時もかかる慣行に従い記入されたものである等判示の事情のもとでは、右控訴期間の不遵守は、送達受取人の過失に基づくものであつても、当事者の責に帰すべからざる事由によるものというべきである。
控訴期間の不遵守が訴訟代理人の定めた送達受取人の過失に基づくものであつても、当事者の責に帰すべからざる事由によるものであるとされた事例
民訴法159条1項,民訴法170条
判旨
訴訟代理人が弁護士会の受送達事務の慣行を信頼し、判決正本に記載された誤った受送達日を基準に控訴を提起したため不変期間を徒過した場合、当事者の責めに帰すべからざる事由があるものとして訴訟行為の追完が認められ得る。
問題の所在(論点)
訴訟代理人が、送達受取人に指定した弁護士会の事務上の誤りにより送達日を誤認し、不変期間を徒過した場合、民訴法97条1項(旧159条)の「責めに帰すべからざる事由」が認められるか。また、裁判所は追完について釈明義務を負うか。
規範
民事訴訟法上の「当事者がその責めに帰することができない事由」(現民訴法97条1項)とは、当事者またはその代理人が、訴訟行為を執行するために通常期待される注意を尽くしても、なお期間を遵守できなかった場合をいう。訴訟代理人が、公的な規則に基づき指定した送達受取人(弁護士会等)の事務取扱を信頼し、これに依拠したことについて、何ら責められるべき点がない場合には、当該事由に該当する。また、裁判所は、事案の経緯から追完事由の存在が疑われる場合には、釈明権を行使して追完の意思を確認すべき義務を負う。
事件番号: 昭和42(オ)346 / 裁判年月日: 昭和43年12月17日 / 結論: 棄却
サイゴン在住の本人が、公示送達の方法による判決正本の送達を知つた後、その責に帰すべき遅延なしに控訴提起の訴訟委任状を弁護士のもとに送附したときには、この時をもつて、控訴期間不遵守の事由が止んだものというべきである。
重要事実
訴訟代理人弁護士Aは、東京弁護士会を受送達場所として指定していた。第一審判決正本は9月22日に同会に送達されたが、同会の送達部は、事務処理を終えた9月24日を送達日としてゴム印を押捺し、Aに送付した。Aは、この記載を信じて10月8日に控訴状を提出したが、実際の送達日(22日)を基準とすると控訴期間を徒過していた。原審は、追完の申立てがないとして控訴を却下した。
あてはめ
弁護士Aは、弁護士法等に基づく規則に従い送達受取人を指定しており、長年の慣行となっていた事務取扱を信頼していた。弁護士会が法の規定と抵触する取扱をすることは全く予想し得ないことであり、A自身に過失があるとはいえない。送達受取人である弁護士会に過失があったとしても、直ちに代理人本人の責めに帰すべきものとは解されない。また、Aが原審で控訴の適法性を強く主張していた以上、裁判所は追完の主張をするか釈明を求めるべきであった。
結論
不変期間の徒過は当事者の責めに帰すべからざる事由によるものであり、追完が認められる余地がある。原審が釈明を怠り、追完の成否を検討せずに控訴を却下したのは審理不尽・理由不備であり、違法である。
実務上の射程
送達受取人のミスを代理人の過失と同一視せず、代理人がその事務を信頼することに正当な理由がある場合には追完を認める判断枠組みを示した。答案上は、期間徒過が判明した際の救済策として、本人のみならず代理人の過失の有無を検討する局面で活用できる。また、釈明権行使の限界(職権探知との境界)の議論においても有用である。
事件番号: 昭和27(オ)760 / 裁判年月日: 昭和27年9月19日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】送達の方法が従来の慣例と異なる「郵便に付する送達」であったために上告期間を遵守できなかったとしても、それは当事者の責めに帰することができない事由には当たらないため、訴訟行為の追完は認められない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の送達を昭和27年5月13日に受けたが、上告状を提出したのは上告期間…
事件番号: 昭和54(オ)613 / 裁判年月日: 昭和55年10月28日 / 結論: 破棄差戻
昭和五三年一二月一五日判決正本の送達を受けた第一審判決につき、控訴代理人が同年一二月二六日その控訴状を書留速達郵便物として長崎市内の郵便局に差し出したところ、同五四年一月一日に至つて福岡高等裁判所に配達されたとの事情のもとでは、右控訴状の配達の遅延は控訴代理人において予知することのできない程度のものであつた疑いがあり、…
事件番号: 昭和37(オ)1019 / 裁判年月日: 昭和39年9月15日 / 結論: 破棄差戻
大阪市内の郵便局に書留速達郵便物として差し出した控訴状が、通じて四日を費して名古屋市内の裁判所に配達され、控訴代理人の予知できない事情に基づく郵便物延着の疑をさしはさみうるにかかわらず、この間の事情を審究せず、右郵便物配達の時にはすでに控訴期間が経過していたとの理由で、控訴を不適法として却下した判決には、審理不尽の違法…