借地法一〇条による建物買取請求権の行使に関する主張が、同条所定の時価として裁判所が相当と認める額の代金の支払があるまで、建物の引渡を拒むために同時履行等の抗弁権を行使する前提としてなされたもので、右時価に関する証拠調になお相当の期間を必要とするものである場合において、すでに訴訟は裁判をなすに熟し、さらに審理を続行する必要がないとして弁論を終結すべきであるときは、右主張は、訴訟の完結を遅延せしめるものである。
建物買取請求権の行使に関する主張が訴訟の完結を遅延させるものとされた事例
民訴法159条1項,借地法10条
判旨
建物買取請求権の行使に関する主張が、控訴審の第11回口頭弁論期日に至って初めてなされた場合、重大な過失により時機に遅れて提出されたものと認められ、かつ、時価認定に証拠調べを要し訴訟の完結を遅延させるものであるときは、民事訴訟法157条1項(旧139条1項)に基づき却下することができる。
問題の所在(論点)
控訴審の後半(第11回期日)に初めて行われた建物買取請求権の主張が、時機に遅れた攻撃防御方法の却下要件(旧民訴法139条1項、現行157条1項)を充足するか。
規範
民事訴訟法157条1項に基づき攻撃防御方法を却下するためには、①「時機に遅れて提出」されたこと、②「故意又は重大な過失」により遅れたこと、③それにより「訴訟の完結を遅延させる」ことの要件を充足する必要がある。特に③については、当該主張を審理・判断するために、却下しない場合と比較して追加的な証拠調べ等の期間を要するか否かという観点から判断される。
重要事実
土地賃貸人である被上告人が、賃借人である上告人に対し建物収去土地明渡等を求めた事案。上告人は、第1審の期日に出頭せず敗訴。控訴審の第2回期日において賃借権譲渡の承諾を得た旨の抗弁を提出したが、その後和解勧告や期日を重ねるも、第11回期日に至ってようやく建物買取請求権行使の主張を行った。さらに、第12回期日に当該主張が却下され、弁論が終結した。なお、建物時価の認定に必要な証拠は、既存の証拠のみでは不足していた。
事件番号: 昭和28(オ)759 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 破棄差戻
一 控訴審において初めて提出した攻撃防禦の方法が、民訴第一三九条にいわゆる時機に後れたるや否やは、第一審以来の訴訟手続の経過を通観してこれを判断すべく、時機に後れた攻撃防禦の方法であつても、当事者に故意または重大な過失が存し、かつ訴訟の完結を遅延せしめたる場合でなければ、同条によりこれを却下し得ないものと解すべきである…
あてはめ
上告人は控訴審第2回期日以降、十分な抗弁提出の機会を有していたにもかかわらず、第11回期日まで当該主張を留保しており、重大な過失により時機に遅れて提出したものといえる(要件①②充足)。また、建物買取請求権に伴う同時履行の抗弁に関し、建物の時価を認定するためには更なる証拠調べに相当の期間を要することが明らかである。原審は却下した期日に弁論を終結可能な状態であったことから、当該主張を許容すれば審理の続行が必要となり、訴訟の完結を遅延させるものと認められる(要件③充足)。
結論
建物買取請求権の主張を時機に遅れたものとして却下した原判決は、民事訴訟法157条1項(旧139条1項)の適用において正当であり、適法である。
実務上の射程
建物の時価算定のために鑑定等の証拠調べが必要となる建物買取請求権の主張は、訴訟遅延を招きやすいため、提出時期によっては本判例と同様に却下のリスクが高い。答案上は、訴訟経過(期日の回数や和解の有無)と、追加的な証拠調べの必要性の有無を具体的に指摘してあてはめるべきである。
事件番号: 昭和36(オ)1301 / 裁判年月日: 昭和37年6月29日 / 結論: 棄却
所有権に基づく土地明渡請求訴訟において、第一審以来原告の土地所有を認めこれを原告が既に訴外者に売却したと主張して来た被告が控訴審(同六回弁論期日)になつてはじめて原告の右所有を争い、原告先代から被告自身が所有権を取得したと主張することは、右訴訟の経過に鑑み故意かしからずとするも重大な過失によつて時機に遅れた防禦方法を提…
事件番号: 昭和38(オ)627 / 裁判年月日: 昭和39年11月17日 / 結論: 棄却
ただ、相上告人の上告理由中利益なものを援用すると主張する上告理由の記載は、具体性を欠き法定の方式をそなえるものとは認められない。
事件番号: 昭和42(オ)912 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
建物買取請求権およびその代金との引換給付を求める者の抗弁を第一審の最終口頭弁論期日および原審の第一回口頭弁論期日にいたつてはじめて提出した場合においても、当時賃貸人たる原告と訴外甲との間に別訴で係争土地の所有権の帰属が争われており、右抗弁を提出した被告らが甲から本件土地を賃借した旨主張して争つていた事情があるときは、被…
事件番号: 昭和48(オ)859 / 裁判年月日: 昭和49年9月20日 / 結論: 棄却
借地法四条一項但書の正当事由の有無の判断基準時を賃貸借期間終了の時とし、その後の事情を右判断基準時の事実関係を認定するための資料とした原審の認定判断は正当である。