一 控訴審において初めて提出した攻撃防禦の方法が、民訴第一三九条にいわゆる時機に後れたるや否やは、第一審以来の訴訟手続の経過を通観してこれを判断すべく、時機に後れた攻撃防禦の方法であつても、当事者に故意または重大な過失が存し、かつ訴訟の完結を遅延せしめたる場合でなければ、同条によりこれを却下し得ないものと解すべきである。 二 借地法第一〇条による建物買取請求権の行使があるときは、これと同時に目的家屋の所有権は、当然土地賃貸人に移転するものと解すべきである。
一 控訴審において初めて提出した攻撃防禦の方法と民訴第一三九条の適用 二 借地法第一〇条による建物買取請求権行使の効果
民訴法139条,借地法10条
判旨
時機に後れた攻撃防御方法の却下には、当事者の故意・重過失に加え、その審理により訴訟の完結を具体的に遅延させることが必要である。建物買取請求権の行使は、法律上当然に所有権移転等の効果を生じ、特段の証拠調べを要しない限り、訴訟の完結を遅延させるものとはいえない。
問題の所在(論点)
控訴審で初めて行使された建物買取請求権の主張が「訴訟の完結を遅延せしめる」要件を充たすか。特に、行使によって当然に法的効果が生じる権利の主張が遅延を招くといえるかが問題となる。
規範
民事訴訟法157条1項(旧139条)に基づき攻撃防御方法を却下するためには、①時機に後れて提出されたこと、②その提出につき当事者に故意又は重大な過失があること、③それによって「訴訟の完結を遅延せしめる」結果を招来すること、の各要件を充足する必要がある。ここで「遅延」とは、当該主張を却下した場合の結審時期よりも、審理を続行した場合の結審時期が遅れることを指す。
重要事実
上告人は、第1審から賃借権譲渡の不承諾が権利濫用であると争っていたが、控訴審第2回口頭弁論(実質的な初回の審理)において初めて建物買取請求権の行使を主張した。原審は、第1審ですでに主張可能であったとして、これを故意または重過失により時機に後れてなされたものと判断し、却下した。しかし、記録上、第2回で結審せず第6回まで口頭弁論が継続していた。
事件番号: 昭和45(オ)408 / 裁判年月日: 昭和46年4月23日 / 結論: 棄却
借地法一〇条による建物買取請求権の行使に関する主張が、同条所定の時価として裁判所が相当と認める額の代金の支払があるまで、建物の引渡を拒むために同時履行等の抗弁権を行使する前提としてなされたもので、右時価に関する証拠調になお相当の期間を必要とするものである場合において、すでに訴訟は裁判をなすに熟し、さらに審理を続行する必…
あてはめ
建物買取請求権が行使されると、法律上当然に家屋の所有権は土地賃貸人に移転する。この法的効果は、行使の主張が重過失によるものであっても妨げられず、また、その効果を認めるために特段の証拠調べを要するものではない。本件では第2回期日で行使されており、これを審理したとしても訴訟を具体的に遅延させたとはいえない。それにもかかわらず、原審が所有権移転の効果を無視して判決したことは、却下要件の解釈適用を誤っている。
結論
建物買取請求権の行使のような、特段の証拠調べを要さず直ちに法的効果が生じる主張については、原則として訴訟の完結を遅延させるものとはいえず、却下は許されない。
実務上の射程
時機に後れた却下の要件のうち「訴訟の完結を遅延」の判断基準を具体化した重要判例である。答案上は、形成権の行使が訴訟上主張された際、それが「新たな証拠調べを必要とするか」という観点から、却下可否を論じる際の準拠となる。特に建物買取請求権や相殺の抗弁など、行使によって直ちに権利関係が確定する性質のものに応用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1301 / 裁判年月日: 昭和37年6月29日 / 結論: 棄却
所有権に基づく土地明渡請求訴訟において、第一審以来原告の土地所有を認めこれを原告が既に訴外者に売却したと主張して来た被告が控訴審(同六回弁論期日)になつてはじめて原告の右所有を争い、原告先代から被告自身が所有権を取得したと主張することは、右訴訟の経過に鑑み故意かしからずとするも重大な過失によつて時機に遅れた防禦方法を提…
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和31(オ)755 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利濫用の抗弁は、その前提となる権利(賃借権等)の取得が認められない場合には、判断の対象とならない。また、控訴審で主張していない事実を前提とした判断遺脱の主張は、上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地について賃借権を取得したと主張し、その上で権利濫用の抗弁を提出した。し…
事件番号: 昭和29(オ)966 / 裁判年月日: 昭和31年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に基づく妨害排除請求権が成立し得る場合であっても、個別の具体的事実関係に照らし、その権利行使が正当な利益を欠き、相手方に不当な不利益を与える場合には、民法1条3項により権利の濫用として許されない。 第1 事案の概要:本件では、上告人が主張する賃借権に基づき、目的物の占有を妨げている者に対して…