私文書の記載内容が証拠資料となることなく、私文書の存在が証拠資料となるにすぎない場合には、当該文書の成立につき判断を示す必要はない。
私文書の存在のみが証拠資料となる場合と文書成立の判断の要否
民訴法525条
判旨
書証の証拠調べにおいて、文書の存在自体を間接事実として認定するにとどまり、記載内容の真実性を直接の証拠とするものでない場合には、文書の成立の真正を認める根拠を示す必要はない。
問題の所在(論点)
文書を証拠として採用する際、その記載内容を事実認定の直接の根拠とせず、授受の事実等を証拠資料とする場合であっても、民事訴訟法上の証拠調べのルールとして文書の成立の真正を認める根拠を示す必要があるか。
規範
文書を「作成者の意思を表現するものとしてその記載内容に沿う事実を認定する」証拠(記述証拠)として用いるのではなく、当該文書の存在や授受の事実を他の証拠と併せて間接事実を認定するための証拠資料(物証的利用)として用いる場合には、作成者の特定や成立の真正に関する厳格な立証およびその根拠の明示は不要である。
重要事実
請負代金の内金合計164万円の授受が争点となった事案において、原審は提出された甲第1号証ないし第3号証に基づき、直ちに代金授受の事実を認定したわけではなかった。原審は、これらの文書が被上告人と訴外の者との間で授受されたという事実を、他の証拠と総合して認定したにすぎなかった。上告人は、原審がこれら文書の成立の根拠を示さずに証拠とした点に違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件において原審は、甲第1号証ないし第3号証について、その記載内容が真実であることを前提に代金授受を認定したのではない。あくまで「文書が授受されたこと」という客観的事態を証拠資料としたものである。このように、文書を内容の真実性の証明ではなく、存在や授受という事実の証明のために用いる場合には、作成者の意思表示としての成立(形式的証拠力)の有無が直接問題となるわけではない。したがって、原判決が成立の根拠を示さなかったことに違法はない。また、作成者が主張と合致する他の文書についても、証言により作成の事実が認められており、手続上適法である。
結論
文書の存在自体を証拠資料とする場合には、成立の根拠を示す必要はなく、原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
書証の証拠力のうち、形式的証拠力が問題となるのは記述証拠として利用する場合である。本判決は、文書を「物」として利用する場合(非記述証拠的利用)には、成立の真正に関する判示を省略しても理由不備等の違法にならないことを示唆している。実務上、領収書や契約書の授受そのものが重要な間接事実となる場合に、証拠の申出および評価の枠組みを整理する上で有用である。
事件番号: 昭和26(オ)445 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、判決の理由において、証拠を採用しない場合にその理由を逐一説明する必要はない。また、原審が適法に行った事実認定や、証拠の評価に基づく知情性の否定は、上告理由とならない。 第1 事案の概要:上告人らが、不法行為の事実や相手方の知情性(悪意)を主張したが、原審は証拠の全文を検討した結果、不法行…