危険建物として解体する必要があるとしてなされた家屋賃貸借の解約の申入は、当該建物が完全な朽廃の寸前にあつて、姑息な修理では到底建物として維持できず、隣接建物への損害の除去防止のためにも殆んど新築に近い大修理を施すかまたは取りこわすより外なく、公安上からもこれを現状のまま放置することは許されない等、判示の事情があるときは、正当事由を具備したものと認められる。
危険建物として解体する必要があるとしてなされた家屋賃貸借の解約申入と正当事由の有無。
借家法1条ノ2
判旨
建物の賃貸借契約の解約申入れに正当事由があるか否かの判断において、建物が朽廃寸前の危険な状態で、修繕に多額の費用を要し、公共の安全上放置できない場合には、正当事由を肯定すべきである。
問題の所在(論点)
建物の老朽化・腐朽が著しく、倒壊の危険がある場合において、賃貸人による解約申入れの「正当事由」が認められるか。
規範
借地借家法(旧借家法1条の2)における「正当の事由」の有無は、建物の使用を必要とする事情に加え、建物の物理的状態、維持修繕の可否・経済性、および社会公共の安全等の諸要素を総合して判断される。特に、建物が修繕不能なほど腐朽し、倒壊の危険がある場合には、賃貸人の解約申入れに正当な事由が認められる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人)に対し、家屋賃貸借契約の解約申入れを行った。当該建物は、厚生省保安度調査評点に基づく「危険建物」であり、全体的に破損・腐朽が甚だしく、時間の経過とともに損傷が増大していた。また、地震の際には倒壊して隣接する公衆浴場に被害を及ぼす恐れがあった。維持には新築に近い大修理が必要であり、姑息な修理では建物として維持できない状態であった。
あてはめ
本件建物は、完全な朽廃の寸前にあり、現状放置が公安上許されない状態にある。賃貸人が負う修繕義務の範囲を検討しても、本件のような新築に近い大修理が必要な状態では、もはや修繕による維持は合理的ではない。また、解約後の賃料相当額の受領についても、賃貸人は賃料相当損害金として受領しており、解約申入れの撤回や新契約の締結とは認められない。したがって、建物の危険性と公共安全の観点から、解約の正当事由が具備されていると評価できる。
結論
本件解約申入れには正当事由があり、賃貸借契約は終了する。したがって、建物の明け渡しを求める請求は認められる。
実務上の射程
建物の老朽化を理由とする正当事由の判断基準として重要である。単なる築年数の経過ではなく、「朽廃寸前」「倒壊による二次被害の危険」「修繕の不経済性」といった具体的な危険性を主張・立証する際の指針となる。
事件番号: 昭和33(オ)728 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 棄却
賃貸家屋の朽廃の時期が迫つた場合、これを大修繕するために賃貸借を終了させる必要があり、その必要が賃借人の利益と比べてこれにまさるときは、解約申入につき借家第法一条ノ二にいわゆる正当の事由があると解すべきである。