賃貸家屋の朽廃の時期が迫つた場合、これを大修繕するために賃貸借を終了させる必要があり、その必要が賃借人の利益と比べてこれにまさるときは、解約申入につき借家第法一条ノ二にいわゆる正当の事由があると解すべきである。
朽廃時期の迫つた賃貸家屋に対する大修繕の必要と借家法第一条ノ二にいわゆる正当事由。
借家法1条ノ2,民法606条
判旨
賃貸家屋の破損腐朽が甚だしく大修繕が必要な場合、修繕による家屋の効用延長の必要性が賃借人の利益を上回るときは、解約申入れの正当事由が認められる。
問題の所在(論点)
家屋の朽廃が迫り、保存のための大修繕を要する場合において、賃貸人の修繕・改築の必要性が解約申入れの「正当事由」として認められるか。賃貸人の修繕義務との関係が問題となる。
規範
賃貸家屋の破損腐朽が甚だしく、放置すれば朽廃の時期が迫っている場合、所有者が大修繕や改築により家屋の効用期間の延長を図る必要があり、その必要性が賃借人の有する利益に比較衡量して勝る場合には、借家法一条の二(現行借地借家法28条)にいう解約申入れの「正当事由」を充足する。
重要事実
本件家屋は建築後約30年が経過し、腐朽破損が甚だしく、姑息な部分的修繕では天災地変の際に倒壊の危険すら予想される状態にあった。改築に近い大修繕を施さなければ早晩朽廃を免れない状況にあり、賃貸人は家屋保存の必要から賃貸借の解約を申し入れた。なお、当該賃貸借の賃料額は低廉であり、解約に至る経緯も考慮された。
あてはめ
本件家屋は、放置すれば倒壊の危険があり早晩朽廃を免れない状況にある。このような場合、賃貸人に無制限に修繕義務を課して賃借人のみを保護するのではなく、所有者による効用延長の必要性を認めるべきである。本件の賃料額の低さや修繕の緊急性、解約に至る経過を総合すると、賃貸人の必要性は、賃借人が家屋を継続利用することで得る利益に比較して優越するといえる。したがって、本件の解約申入れには正当な理由があるものと解される。
結論
本件家屋の腐朽破損の程度および大修繕の必要性に鑑み、解約申入れの正当事由を肯定した原審の判断は正当である。
実務上の射程
建物の老朽化を理由とする正当事由の判断において、物理的な「朽廃」に至る前であっても、大修繕による効用維持の必要性が認められる場合には正当事由を補強する要素となり得ることを示している。実務上は、修繕の必要性に加え、賃料水準や立退料の提供の有無等との比較衡量により判断される。
事件番号: 昭和28(オ)1408 / 裁判年月日: 昭和29年7月9日 / 結論: 棄却
原判決の認定したような事情により賃貸家屋を解体する必要がある場合は、解約申入につき借家法第一条ノ二にいわゆる正当の事由がある。