原判決の認定したような事情により賃貸家屋を解体する必要がある場合は、解約申入につき借家法第一条ノ二にいわゆる正当の事由がある。
借家法第一条の二にいわゆる正当事由のある一事例
借家法1条ノ2
判旨
建物が老朽化し、倒壊の危険性や衛生上の問題が生じている場合において、治安維持や公衆衛生の観点から建物を解体する必要があるときは、借家法一条の二(現行借地借家法28条)の正当事由が認められる。
問題の所在(論点)
建物の老朽化・倒壊の危険性および公共安全上の懸念がある場合に、借地借家法(旧借家法1条の2)における「正当事由」が認められるか。
規範
賃貸借の更新拒絶や解約申入れに「正当の事由」が必要とされるが、これは賃貸人・賃借人双方の諸事情を総合考慮して判断される。特に、建物の物理的朽廃や構造上の欠陥により、利用継続が利用者の安全や社会公共の利益(治安・衛生等)を著しく損なう状況にある場合は、建物の取壊し・解約の必要性を基礎付ける重要な要素となる。
重要事実
賃貸人Xは、昭和2年築のバラック式三戸建建物を賃借人Yに貸していた。当該建物は、隣家の火災による延焼で一部が損壊し、応急処置で辛うじて使用できる状態にあった。建物全体が傾斜しており、暴風や地震による倒壊の危険性が高く、かつ繁華街のバス停留所付近に位置していた。さらに、地盤が低いため浸水の恐れがあり、衛生上の問題も生じていた。Xはこれらの理由から、建物を解体して再築するために解約を申し入れた。
あてはめ
本件建物は、火災による損壊と著しい傾斜により、突発的な災害時に倒壊する危険性が極めて高い。繁華街という立地条件を鑑みれば、このまま放置することは治安・安全上の重大な脅威となる。また、浸水の恐れや湿気による衛生上の欠陥も看過できない。これらの物理的・社会的な建物の状況は、所有者による解体・解約の必要性を強く裏付けるものである。さらに、Xは以前から解体の意向を示しており、Yも当初は特段の異存を示していなかったという経過に照らせば、Y側の事情を考慮しても、Xの解約申入れには正当な理由があるといえる。
結論
本件建物の状況に鑑み、解体・解約を求めることには正当事由が認められるため、解約申入れは有効である。
実務上の射程
老朽化を理由とする正当事由の判断において、単なる建物の古さだけでなく、「倒壊の危険性」や「周辺への安全上の影響」といった客観的な危険性を重視する枠組みとして活用できる。答案上は、財産権の行使と公共の福祉の調整という観点から、物理的朽廃が正当事由を基礎付ける一事情となることを論述する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和38(オ)878 / 裁判年月日: 昭和39年4月24日 / 結論: 棄却
建物の賃貸借の解約申入につき判示のような事実があるときは、借家法第一条ノ二にいわゆる正当事由があると認むべきである。