建物の賃貸借の解約申入につき判示のような事実があるときは、借家法第一条ノ二にいわゆる正当事由があると認むべきである。
建物賃貸借の解約申入につき正当事由があるとされた事例。
借家法1条ノ2
判旨
建物の老朽化や防災上の危険性、再開発の必要性といった賃貸人側の事情に加え、代替物件の提供や休業補償の提示といった立退料等の申出を総合考慮し、賃借人側の居住や営業の必要性を上回ると判断される場合には、借地借家法上の「正当の事由」が認められる。
問題の所在(論点)
旧借家法1条の2(現行借地借家法28条)にいう「正当の事由」の存否を判断するにあたり、建物の老朽化や防災上の必要性、および賃貸人が提示した代替物件等の提供案をどのように考慮すべきか。
規範
解約申入れの「正当の事由」の有無は、建物の使用を必要とする事情のほか、建物の利用状況、建物の現況、および賃貸人が建物の明渡しの条件として財産上の給付(立退料等)を申し出た場合における当該申出を考慮し、これらを総合比較して判断する。
重要事実
賃貸人は、築50年以上経過し老朽化した本件建物および隣接するマーケット(粗雑な急造建物で火災危険が高いと行政指導を受けていた)の一体的な改築を計画した。一方、賃借人は当該建物で自転車預り業を営み家族8人の住居としていたが、他に職もあった。賃貸人は解決案として、新築建物の一部賃貸、改築中の一時使用、および休業補償を提示したが、賃借人はこれに応じなかった。
あてはめ
本件建物は築50年以上で傾斜やゆがみが生じており、隣接するマーケットと共に火災等の危険性が高く、早期改築の必要性が高い。賃貸人は具体的な改築計画を持ち、行政の確認も受けている。これに対し、賃借人の居住・営業の必要性は否定できないものの、賃貸人が代替物件の賃貸や休業補償という柔軟な解決案を提示していることは、賃借人の不利益を緩和する要素として正当事由を補完する。これらを総合すると、賃貸人が建物の使用を必要とする事情は賃借人の事情を上回る。
結論
本件解約申入れには正当の事由が認められる。
実務上の射程
建物の老朽化や都市再開発の必要性といった客観的事情に加え、賃貸人による代替物件の提供や補償の申出(立退料等の提供)が、正当事由の判断を補完する極めて重要な要素となることを示した事例である。答案上では、双方の必要性を比較衡量する際の「補完的要素」として、賃貸人からの条件提示を適切に位置づける必要がある。
事件番号: 昭和28(オ)658 / 裁判年月日: 昭和29年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法(旧借家法)における解約申入れの正当事由の存否は、賃貸人および賃借人双方の諸般の事情を総合的に比較考量して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に対し、建物の解約申入れを行った事案。原審は、当事者双方の諸事情を詳細に認定した上で、上告人側の解約申入れに…