借家法一条の二に基づく解約を理由とする家屋明渡請求訴訟において原審が、原告の申立がないのに、立退料の支払と引換えに明渡請求を認容した場合でも、立退料の提供がなくても解約申入につき正当事由を具備している以上、被告からの上告は理由がない。
借家法一条の二に基づく解約を理由とする家屋明渡請求訴訟において原告の申立がないのに立退料の支払と引換えに明渡請求を認容した原判決につき被告からの上告を棄却した事例
借家法1条の2
判旨
建物賃貸借の解約申入れにおける正当事由は、建物の老朽化による倒壊の危険性や公益的見地、および賃貸人の敷地利用の必要性を総合考慮して判断される。本件のような状況下では、移転料の提供がなくても正当事由が具備される場合がある。
問題の所在(論点)
旧借家法1条の2における解約申入れの「正当の事由」を判断するにあたり、建物の老朽化や賃貸人の自己使用の必要性が認められる場合、移転料等の提供を申し出ることなく正当事由が具備されるか。
規範
借地借家法28条(旧借家法1条の2)にいう「正当の事由」の存否は、賃貸人および賃借人が建物を必要とする事情、建物の利用状況および現況、ならびに立退料の提供(財産上の給付)等を総合考慮して判断される。特に建物の老朽化が著しく安全上の疑義がある場合や、賃貸人の合理的かつ切実な土地利用の必要性が認められる場合には、金銭の提供を不可欠とせず正当事由を認めることができる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、大正10年頃に建築された木造長屋(本件家屋)を昭和24年に買い受けた。本件家屋は耐用年数が尽きており、天災による倒壊の危険がある上、姑息な補修では朽廃を免れない状態で、防災上の問題もあった。一方で賃貸人は隣接地で染色工場を営んでおり、事業拡大のために本件敷地を利用する必要があった。賃借人(上告人ら)は再三の明渡し請求を受けながら、転居先を見つける努力を十分に行っていなかった。
あてはめ
本件家屋は木造としての耐用命数が尽き、倒壊の危険や公益的な防災上の懸念がある。これは建物の現況に関する要素として正当事由を強く肯定する。また、賃貸人が隣接地の事業拡張のために敷地を必要とする事情は、賃貸人の使用を必要とする具体的かつ合理的な事情である。他方、賃借人側には誠意があれば転居先を確保し得た事情があり、居住の継続を絶対視すべき状況にない。これらの事情を総合すれば、移転料の申出がなくとも、解約申入れから6か月経過した時点で正当事由が具備されたと解するのが相当である。
結論
移転料等の金員の提供を申し出た事実がなくても、建物の老朽化と賃貸人の土地利用の必要性により正当事由は認められる。したがって、上告人らの明渡し義務を認めた原審の判断は妥当である。
実務上の射程
正当事由の判断における「建物の朽廃間近」という事実の重要性を示した判例である。立退料はあくまで正当事由を補完する要素(補完則)であり、建物の危険性や賃貸人の必要性が極めて高い場合には、立退料ゼロでも正当事由が認められ得ることを示す実務上の指針となる。
事件番号: 昭和28(オ)1408 / 裁判年月日: 昭和29年7月9日 / 結論: 棄却
原判決の認定したような事情により賃貸家屋を解体する必要がある場合は、解約申入につき借家法第一条ノ二にいわゆる正当の事由がある。