論旨は、原審は上告人に買収請求権行使の点につき釈明を求むべきであつたのに右釈明義務を果たしていないという。しかし、当事者の一方がある権利を取得したことをうかがわしめるような事実が訴訟上あらわれたにかかわらず、その当事者がこれを行使しない場合にあつても、裁判所はその者に対しその権利行使の意思の有無をたしかめ、あるいは、その権利行使を促すべき責務があるものではないのであつて、このことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(オ)第五四五号同年一一月二七日第一小法廷判決、民集六巻一〇号一〇六二頁)。
明権不行使の違法がないとされた事例。
民訴法127条
判旨
裁判所は、当事者が権利取得を示唆する事実を主張していても、当該権利を行使するか否かを確かめたり、行使を促したりする釈明義務を負わない。
問題の所在(論点)
当事者が権利行使を示唆する事実を主張しているが、権利自体の行使(意思表示)を明示していない場合、裁判所にその権利行使を促すべき釈明義務が認められるか。
規範
裁判所は、当事者の一方がある権利を取得したことをうかがわせる事実が訴訟上現れた場合であっても、当事者がこれを行使しない以上、その者に対して権利行使の意思の有無を確かめ、あるいは権利行使を促すべき責務(釈明義務)を負うものではない。
重要事実
本件土地の賃借権の譲渡について地主の承諾がなかったと認定された事案において、被告(上告人)側は、裁判所が建物買取請求権の行使について釈明を求めるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは釈明義務違反の違法があると主張して上告した。
事件番号: 昭和37(オ)106 / 裁判年月日: 昭和38年6月7日 / 結論: 棄却
一 準備書面の第一審口頭弁論期日における陳述がなされなかつたからといつて、控訴審でこれに記載されている主張をするかどうかを確かめる釈明義務はない。 二 (省略)
あてはめ
本件において、上告人は買取請求権の行使を示唆するような状況にあったとしても、自らその権利を行使する意思を明示していなかった。裁判所は、証拠や事実関係から権利発生の基礎となる事実が認められる場合であっても、弁論主義の観点から、当事者の処分に委ねられている権利行使の有無まで関与して誘導する必要はないと解される。したがって、原審が釈明を求めなかったことに違法はない。
結論
裁判所に権利行使を促す釈明義務はないため、釈明権の不行使を理由とする上告は棄却される。
実務上の射程
弁論主義の第1テーゼ(主要事実の主張責任)に関連し、権利の発生要件としての権利行使の意思表示(権利抗弁)について、裁判所の釈明義務が否定される場面を明確にした判例である。建物買取請求権や相殺権など、形成権の行使を伴う抗弁において、安易に釈明義務を認めない実務の指針となる。
事件番号: 昭和27(オ)545 / 裁判年月日: 昭和27年11月27日 / 結論: 棄却
一 置留権のような権利抗弁にあつては、抗弁権取得の事実関係が訴訟上主張せられたとしても、権利者においてその権利を行使する意思を表明しないかぎり、裁判所においてこれを斟酌することはできない。 二 当事者の一方がある権利を取得したことを窺わしめるような事実が訴訟上あらわれたにかかわらず、その当事者がこれを行使しない場合にあ…
事件番号: 昭和34(オ)710 / 裁判年月日: 昭和36年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が釈明権を行使しなかったとしても、他の証拠により事実認定が維持される場合には、判決の結果に影響を及ぼすべき違法があるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、本件係争地を買い受けたと主張したが、原審は証拠に基づき、上告人が被上告人の先代から土地を賃借したものであると認定した。上告人は、永代…
事件番号: 昭和34(オ)205 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の成否について、原判決の事実認定に法令違背はなく、証拠の取捨選択および判断は事実審の裁量に属する事柄であるとして、上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人は、相手方との間で売買契約が成立したと主張したが、原審(第一審および控訴審)は、上告人が主張する経緯の一部はむしろ売買が成立しない経緯…
事件番号: 昭和30(オ)326 / 裁判年月日: 昭和32年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が提出した書面等に記載があるのみで、事実審の弁論等において適切に主張されなかった事項については、裁判所は釈明権を行使してその主張を明確にさせる義務を負わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地の昭和25年7月当時の賃料統制額や土地等級に関する主張を答弁書に記載していた。しかし、第一審判決…