裏書の抹消による手形の譲渡が期限後になされた場合に、指名債権譲渡の対抗要件を具備することは必要でない。
裏書の抹消による手形の譲渡が期限後になされた場合と指名債権譲渡の対抗要件を具備することの要否。
手形法14条,手形法20条1項,民法467条
判旨
期限後裏書の効力を生じる手形の譲渡については、その方式として民法の指名債権譲渡に関する通知又は承諾を具備せずとも、債務者に対抗することができる。
問題の所在(論点)
手形法20条1項に基づき「指名債権譲渡の効力」しか有しない期限後の手形譲渡について、債務者への対抗要件として民法467条所定の通知又は承諾が必要か。
規範
手形法20条1項柱書及び同項後段によれば、支払拒絶証書作成後又は作成期間経過後の裏書(期限後裏書)は、指名債権譲渡の効力のみを有する。しかし、これは実体法上の効力(人的抗弁の切断や善意取得の成否)を制限する趣旨であり、権利移転の「方式」までをも民法の指名債権譲渡の対抗要件(民法467条)に従わせる趣旨ではない。したがって、実質的な権利移転の意思をもって手形を交付すれば、指名債権譲渡の通知・承諾を欠いても、債務者に対して手形上の権利を対抗できる。
重要事実
被上告人は、取得した本件各約束手形を訴外D社に白地式裏書によって譲渡した。その後、各手形の支払期限経過後である昭和35年11月22日に、D社が行った裏書部分を抹消した上で、D社から被上告人に対し各手形が返還(再譲渡)された。被上告人は手形上の権利を主張したが、上告人(債務者)は、当該譲渡が期限後になされた指名債権譲渡である以上、民法の規定に基づく譲渡通知がなされない限り対抗できないと主張して争った。
あてはめ
本件における手形の再取得は、支払拒絶証書作成期間の経過後に行われたものであり、手形法20条1項の準用を受ける期限後譲渡に該当する。しかし、手形は本来その占有と権利が結合した証券であり、裏書抹消後の交付による譲渡であっても、実質的に権利を移転する意思をもってなされた以上、手形上の権利は完全に移転する。この場合、期限後であっても手形法の規律が優先され、民法の指名債権譲渡に関する対抗要件(通知・承諾)を備える必要はない。したがって、通知を欠いていることを理由に上告人が履行を拒むことはできない。
結論
期限後裏書の方式による手形譲渡に際し、民法の指名債権譲渡の通知は不要であり、被上告人は上告人に対し権利を対抗できる。
実務上の射程
手形法20条1項の「指名債権譲渡の効力」という文言の解釈を、実体法上の効力制限(抗弁の承継等)に限定し、対抗要件の履践(通知)までは要求しないことを確定した。答案上は、期限後裏書の法的性質を論じる際に「方式の簡易性」を維持する根拠として活用すべき判例である。
事件番号: 昭和30(オ)388 / 裁判年月日: 昭和31年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】期限後裏書によって手形を取得した者は、当該手形が満期に支払われなかった事実を知っていたとしても、譲渡人が手形上の権利を有する限り、当然にはその行使を妨げられない。 第1 事案の概要:被上告人は、本件手形をその満期経過後に取得した(期限後裏書)。上告人(手形債務者)は、被上告人が「本件手形が満期日に…