地主が売却代金六万円を土地使用人との共同事業に出資するとともに土地の使用を認め、共同事業による利益分配金を受領することを約していた場合において、数年後に右合意の内容を明確にするための覚書の案について「賃貸」などの表現を訂正して「使用」などの用語を用いてはじめて覚書に捺印したような判示の事情のあるときには、地主において判示のような金員を受領していても、賃貸借の成立は認められない。
賃貸借の成立が否定された事例。
民法601条,民法614条
判旨
土地の使用関係において、支払われた金員が共同事業の出資金に対する配当としての性格を有し、当事者間に賃貸借の合意や賃料の授受を否定する明確な意思表示がある場合には、賃貸借契約の成立は認められない。
問題の所在(論点)
共同事業への出資に伴い土地の使用を認め、利益分配金名目で金銭が支払われている状況において、賃料支払の合意があるといえるか、すなわち賃貸借契約の成立が認められるか。
規範
賃貸借契約(民法601条)が成立するためには、当事者間において、一方が物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと、及びその使用収益の期間が満了した時にその物を返還することを約すること、すなわち賃料支払に関する合意が必要である。
重要事実
DはEに対し、隣接地の売却代金6万円を共同事業に出資し、Dが入用のときにはいつでも明け渡すとの約定で本件土地の使用を認め、共同事業の利益分配金を受領することとした。EはDに対し、昭和22年から30年にかけて毎年数万円を支払ったほか、固定資産税を代納していた。昭和27年、Eが作成した覚書案に「賃貸」「賃料」「借用土地」との記載があったが、D側は「賃貸しているものではない」と抗議し、文言を「使用」「使用料」「使用土地」と訂正させた上で捺印した。
あてはめ
本件において、EからDに支払われた金員は、Dによる出資金に対する配当としての性格を有しており、土地の使用対価たる賃料としての性質を備えていない。また、覚書作成の際、D側が「賃貸」という文言を拒絶し、「使用」という表現に修正させた事実は、当事者間に賃料を対価とする賃貸借関係を成立させる意思がなかったことを強く推認させる。固定資産税の代納等があったとしても、これらの諸事情を総合すれば、賃料についての合意があったとは認められない。
結論
本件土地について賃貸借契約の成立は認められない。
実務上の射程
土地の利用に伴い金銭の授受がある場合でも、その法的性質が共同事業の配当や贈与的性質に留まり、当事者が賃貸借であることを明示的に拒絶している場合には、使用貸借ないし無名の利用関係と認定される。答案上は、賃料支払の合意の有無を判断する際の、支払金員の性質と当事者の主観的意図の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)994 / 裁判年月日: 昭和38年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物品の授受が土地使用の対価たる賃料としてではなく、社交上の儀礼的贈答としてなされたにすぎない場合には、賃貸借関係の成立は否定され、使用貸借関係にとどまる。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、本件土地の利用をめぐり物品の授受を行っていた。上告人は、この物品の授受が農地賃貸借における賃料の支払いに…
事件番号: 昭和40(オ)1491 / 裁判年月日: 昭和41年5月31日 / 結論: 棄却
土地の借主が無償使用に気がとがめ、盆暮に各一万円、その後各二万円づつの現金またはギフトチエツクを貸主に手渡していたが、右金員が貸主との約定によるものでなく、借主側で一方的のその額と支払時期とを定めたものであり、かつ、その金額は賃料額に比して些細なものであつたことが認められる等原判示事情(原判決理由参照)のもとにおいては…