当事者が真正に成立したものとして提出した書証の一部の成立を相手方が争つた場合、原審がその成立に争いがないものとして判断の資料に供しても、当該当事者がその違法を主張して上告する利益はない。
当事者に有利な事項についての上告の利益。
民訴法393条
判旨
自己に有利な原審の判断に誤りがあることを理由として原判決を非難することは、上訴の利益を欠くため許されない。また、第一審訴訟手続の違法のみを理由として上告をなすことも許されない。
問題の所在(論点)
1. 当事者一方が提出した証拠を、裁判所が当該当事者の主張通りに成立したものと認定した場合、当該当事者にその判断を争う上訴の利益が認められるか。 2. 第一審の訴訟手続上の違法を、直接の上告理由として主張できるか。
規範
1. 上訴は、自己に不利益な裁判の変更を求める制度である。したがって、自己が真正に成立したものとして提出した証拠の成立を認めた判断のように、自己に有利な原審の判断の誤りを主張することは、上訴の利益を欠き許されない。 2. 上告は、原則として第二審判決の当否を審査するものである。したがって、第一審の訴訟手続に存する違法を直接の理由として上告を申し立てることはできない。
重要事実
上告人が真正に成立したものとして提出した証拠(甲8号証)について、被上告人が一部の成立を争ったにもかかわらず、原審は当該証拠につき成立に争いがないものと認定した。上告人は、この原審の判断が誤りであるとして上告した。また、上告人は第一審の訴訟手続に違法があること、及び判決言渡期日に当事者双方が欠席した際の次期日告知の効力等についても不服を申し立てた。
あてはめ
1. 上告人は自ら甲8号証を真正なものとして提出しており、原審がその成立を認めたことは上告人の主張に沿うものである。これは上告人に有利な判断であり、これに不服を唱えることは、自己に不利益な裁判の取り消し・変更を求める上訴の趣旨に反し、上訴の利益を欠く。 2. 第一審の手続違背の主張は、第二審判決自体の違法事由を構成しない限り、直接の上告理由にはなり得ない(判例法理)。 3. 言渡期日の不出頭による延期および新期日の指定告知については、適法に効力が生じている(既判例の踏襲)。
結論
本件上告は、上訴の利益を欠く主張や、適法な上告理由とならない事由を前提とするものであるため、棄却される。
実務上の射程
上訴の利益(不服の有無)を判断する際、「形式的不服説」を前提としつつ、自己の主張が認められた有利な判断を争うことはできないという原則を確認する事案。また、一審の違法を直接上告理由にできないという民事訴訟の構造的制約を示す際にも活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)811 / 裁判年月日: 昭和38年11月19日 / 結論: 棄却
第二審における訴訟手続が違法でない以上、第一審の訴訟手続の違法を上告理由とすることはできない。