家屋賃借人が賃借家屋を増改築した行為が賃貸借当事者間の信頼関係を破壊するに足らないとされた事例。
判旨
賃借人が無断で建物の増改築を行った場合であっても、それが従前の部屋の改築と押入の増築に留まり、賃料増額等で対応可能な不利益しか生じないなど、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるときは、解除権は発生しない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃貸人に無断で建物の増改築を行った場合において、当該行為が「信頼関係を破壊するに足りるもの」といえないときは、賃貸借契約の解除が認められるか。
規範
賃貸借契約は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約である。したがって、賃借人が賃貸人の承諾なく増改築等の義務違反行為を行った場合であっても、当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、信頼関係破壊の法理により、賃貸人は契約を解除することができない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、昭和30年8月頃、賃貸借の目的物である本件建物について、賃貸人(上告人)に無断で工事を行った。その内容は、従前から存在した4畳半1室の改築と、これに付随する押入の増築であった。賃貸人は、この無断増改築が義務違反(信頼関係の破壊)に当たるとして、契約の解除を主張した。なお、この増改築により賃貸人に課税上の不利益が生じる可能性があった。
あてはめ
本件における工事の内容は、既存の4畳半1室の改築および押入の増築という限定的な範囲に留まるものである。また、賃貸人が主張する課税上の不利益については、賃借人に対する今後の賃料増額によって補填・調整することが可能である。そうであれば、本件の無断増改築は、直ちに賃貸人に対する背信行為として契約の継続を著しく困難にするものとはいえず、依然として信頼関係は維持されていると評価すべき特段の事情がある。
結論
本件の増改築は信頼関係を破壊するに足りるものとはいえないため、賃貸人による解除は認められない。
実務上の射程
無断増改築に基づく解除事案における、信頼関係破壊の法理の適用例である。増改築の規模が小さく、かつ金銭的調整(賃料増額)によって賃貸人の不利益が解消可能な場合には、背信性が否定される方向で機能することを示唆している。
事件番号: 昭和39(オ)292 / 裁判年月日: 昭和40年1月19日 / 結論: 棄却
建物貸借人が、賃貸人に無断で賃借権を第三者に譲渡し、賃借建物の占有を全面的に第三者に移す等原判示の事実関係のもとにおいては、右賃借権無断譲渡に背信的行為と認めるに足らない特段の事情が存するとはいえない。