借地上の建物の賃借人が空地に建物を無断で増築した場合でも、増築部分が賃借建物の構造を変更しないでこれに附属せしめられた一日で撤去できる程度の仮建築であり、しかも賃借建物は賃借人が自己の費用で適宜改造して使用すべく家主において修理しない約定で借受けた等の経緯であるときは、賃借人の右増築行為は、建物の賃貸借契約を解除しうる背信行為に当らない。
賃借建物の無断増築が契約解除原因に当らないとされた事例。
民法541条,民法616条,民法594条1項
判旨
賃借人が無断で増築を行った場合であっても、増築部分が容易に撤去可能な仮建築であり、建物の効用を害さず、かつ従前の経緯等に照らして賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸借の解除は認められない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃貸人の承諾なく建物に増築を行ったことが、賃貸借契約の継続を困難にする背信行為に該当するか、あるいは無断増築を理由とする解除権の行使が認められるか。
規範
賃貸借契約の解除が認められるためには、単に契約上の義務違反があるだけではなく、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りる背信行為があることを要する。無断増築等の態様が軽微であり、建物の保存・効用を害しないなど、客観的にみて背信性が否定される場合には、解除権の行使は許されない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、昭和3年頃から古家を賃借し、自費で修理・改造して使用する約定で理髪店を営んでいた。昭和24年頃、賃借人は建物の構造を変更せず、一日で撤去できる程度の増築(仮建築)を無断で行った。この増築は建物の利用価値を高めるものであり、効用を害するものではなかった。賃貸人(上告人)は増築の事実を発見したが、当時は特に抗議を行わなかった。
あてはめ
本件の増築部分は、構造変更を伴わない一日で撤去可能な仮建築にすぎず、建物の効用を害するどころかむしろ増加させるものである。また、賃貸借開始当初から賃借人が自費で適宜改造して使用する合意があったことや、賃貸人が増築発見後に即時の抗議をしなかったという経緯に照らせば、賃借人の行為は賃貸人に対する背信行為に当たらないと評価される。
結論
賃借人の無断増築行為は背信行為に当たらないため、これを理由とする賃貸借契約の解除は認められない。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理を、無断転貸(民法612条2項)以外にも、無断増築や改造といった賃借人の善管注意義務違反・保管義務違反の場面に適用した事例。答案上は、用法遵守義務違反等が認められる場面であっても、増築の程度、建物の効用への影響、賃貸人の従前の態度等を総合考慮して解除の可否を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和38(オ)1392 / 裁判年月日: 昭和39年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が無断で建物の増改築を行った場合であっても、それが従前の部屋の改築と押入の増築に留まり、賃料増額等で対応可能な不利益しか生じないなど、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるときは、解除権は発生しない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和30年8月頃、賃貸借の目的物である本件建…