賃貸人の所有建物の一部の賃借人が、他の部分について賃貸人から賃貸の交渉を受けたにかかわらず、これに対する諾否を明らかにしないまま、五ケ月あまりの間、当該部分を不法に占拠して賃借部分と併用している等原判示の事情(原判決理由参照)がある場合には、賃借人の右行為は賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめる不信行為に該当し、賃貸人は、催告なしに賃貸借契約を解除することができる。
建物の一部の賃借人が他の部分を不法に占拠して賃借部分と併用している行為が著しい不信行為であるとして無催告の賃貸借契約の解除が許容された事例。
民法616条,民法594条1項,民法541条
判旨
賃借人が賃貸人の承諾なく建物の一部を不法占拠し、賃料を領得する等の背信行為があった場合、賃貸借契約の基礎となる信頼関係を裏切って継続を困難ならしめる不信行為として、催告を要せず解除できる。
問題の所在(論点)
賃借人が賃借部分以外の建物を無断占拠し、賃料を着服する等の行為を行った場合、当該行為は賃貸借契約における「信頼関係を破壊する不信行為」に該当し、催告なしの解除が認められるか。
規範
不動産賃貸借は当事者間の個人的信頼関係を基礎とする継続的契約である。したがって、賃借人に賃貸借契約の基礎にある当事者相互の信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為(背信行為)が認められる場合には、賃貸人は無催告で賃貸借契約を解除することができる。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)から建物の一部を賃借していたが、他の賃借人が退去した際に、賃貸人に無断でその空き部分(EF部分)および階上(G部分)を不法に占拠し、自らの賃借物件の利便のために使用した。さらに、以前の賃借人から賃貸人に支払うべく託された賃料の一部を自ら領得するという行為に及んだ。
あてはめ
上告人は、建物の賃借部分のみならず、賃貸人の所有する他の部分(EFG部分)を無断で占拠し、これを自己の利便のために利用し続けた。さらに、他者の賃料を着服するなど誠実さを著しく欠く行動に出ている。これら一切の事実関係を斟酌すれば、単なる契約条項の違反に留まらず、賃貸借契約の基礎にある相互の信頼関係を根底から裏切り、今後の関係継続を客観的に困難ならしめる不信行為であると評価できる。よって、賃貸人による解除は有効である。
結論
本件建物の不法占拠等の不信行為を理由とする解除は正当であり、賃貸借契約は適法に終了する。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「信頼関係破壊の法理」を賃貸借契約全般に適用できることを示した一例である。通常、解除には催告が必要だが(民法541条)、本法理によれば、不信行為が著しく信頼関係が破壊されたと認められる特段の事情がある場合には、無催告解除(同法543条類推適用)が認められる。答案では、具体的な不信行為(無断占拠、金銭の着服等)を指摘し、それが契約の継続を困難にする程度に至っているかを評価する際に活用する。
事件番号: 昭和39(オ)622 / 裁判年月日: 昭和40年4月30日 / 結論: 棄却
転貸の事実が消滅しても当該転貸を理由とする賃貸借契約の解除ができないことはない。