三重県、和歌山県、奈良県一帯において材木取引業者間の債務決済につき行なわれている通称「売り権」と呼ばれる慣行に従う契約は、いわゆる流質型の、強い効力を有する譲渡担保に該当せず、処分清算型の、弱い効力を有する譲渡担保と解すべきである。
三重県、和歌山県、奈良県一帯において材木取引業者間の債務決済につき行なわれている「売り権」と呼ばれる慣行による契約の性質。
民法第2編第10章,民法92条
判旨
譲渡担保契約において所有権が内外ともに移転したか否かに関する陳述は、単なる法律的見解の表明にすぎず、裁判上の自白(民事訴訟法179条)には該当しない。また、法律的見解の撤回に対し相手方が異議を述べない場合、その後の主張の一貫性等に基づき、裁判所が別個の性質(処分清算型)と認定しても違法ではない。
問題の所在(論点)
譲渡担保契約において「所有権が内外ともに移転した」とする陳述が、裁判上の自白の対象となる「事実」に該当するか。また、法律的見解の撤回が許容されるか。
規範
裁判上の自白が成立するためには、それが「事実」に関する陳述でなければならない。権利の性質や帰属といった法律的見解の陳述は、原則として「事実」には当たらず、自白としての拘束力を有しない。したがって、当事者が法律的見解を撤回し、裁判所が証拠に基づき当該権利の性質を再構成したとしても、自白の法理に反するものではない。
重要事実
被上告人(原告)は当初、本件山林の所有権が譲渡担保契約に基づき「内外ともに」上告人に移転した旨を陳述した。しかし、後にこれを撤回し、本件契約は処分清算型のいわゆる「弱い譲渡担保」であると一貫して主張するようになった。上告人は、当初の陳述が自白に当たり、これを前提とすべきである旨を主張して上告した。なお、本件には「売り権」という慣行が存在していたが、強い効力を持つ流質型であることを示す証拠は認められなかった。
あてはめ
被上告人が行った「所有権が内外ともに移転したか否か」という主張は、具体的な事実そのものではなく、契約の性質から導かれる法律上の効果や評価(法律的見解)を述べたものと解される。したがって、これは民事訴訟法上の自白にはあたらない。加えて、上告人は被上告人による右陳述の撤回に対し特段の異議を述べておらず、被上告人はその後の審理において処分清算型の性質を一貫して主張している。裁判所が証拠関係に基づき、本件を流質型ではなく処分清算型と認定することは適法である。
結論
所有権移転の態様に関する陳述は法律的見解の表明であり自白ではない。したがって、原審が本件を処分清算型譲渡担保と認定したことに違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
裁判上の自白の対象が「主要事実」に限られることを再確認する文脈で活用できる。実務上、契約の法的性質(所有権留保か、譲渡担保か等)に関する主張が自白にあたらないことを指摘する際の論拠となる。答案では、事実と評価(法律的見解)を峻別する基準として引用すべきである。
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