一 一時使用のための土地賃借人が七〇才をこえる老人であるからといつて、これに対し右賃貸借を解除して建物収去土地明渡を求めることは、原審確定の事実関係のもとで権利濫用とはいえない。 二 借地契約にあたつて賃借人が第三者の無断建築物を買い取り右居住者を立ち退かせる約定があり、賃借人において、これを買い取つたといういきさつがあつても、判示事実関係のもとでは、一時使用の借地契約であるとするに何らさまたげない。
一 高齢の賃借人に対する建物収去土地明渡請求と権利濫用 二 一時使用の借地権と認められた事例
民法1条,借地法9条
判旨
土地賃貸借において、土地上に極めて粗末な小規模のバラック小屋が存在し、その居住者を立ち退かせるために賃借人が当該建物を買い取ったという経緯があるだけでは、直ちに建物所有を目的とする賃貸借(借地法適用対象)とは認められず、一時使用目的の賃貸借と認定される。また、賃借人が高齢で敗訴により生活に困窮する事情があっても、賃貸人の請求権行使は権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
本件土地賃貸借が借地法(旧法)上の「建物所有を目的とする賃貸借」に該当するか、及び賃借人が高齢・困窮する場合の明け渡し請求が権利濫用(民法1条3項)に当たるか。
規範
土地賃貸借が「建物所有を目的とするもの」として借地法(現行の借地借家法)の適用を受けるか否かは、賃貸借成立の経緯、土地上の建物の構造・規模、及び使用目的等の諸事情を総合して判断すべきである。また、賃借人の個人的な困窮事情のみをもって、賃貸人の正当な権利行使を権利濫用と認めることはできない。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)から土地を借りる際、土地の奥にあった極めて粗末なバラック小屋(板囲い古トタン葺堀立平家建、現建物の3分の1の面積)を前居住者から買い取って立ち退かせた。その後、上告人は被上告人に無断で当該建物を増改築した。被上告人は本件賃貸借が一時使用目的(露店用)であるとして土地明け渡しを求めた。これに対し上告人は、建物所有目的の賃貸借であり借地法が適用されるべきであること、及び高齢で住居を失うため請求は権利濫用である旨を主張した。
事件番号: 昭和33(オ)456 / 裁判年月日: 昭和35年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有を目的とする土地の賃貸借であっても、それが一時使用のためのものであることが明らかな場合には、借地法(現・借地借家法)の適用はなく、民法617条に基づく解約申入れによって終了し得る。 第1 事案の概要:被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、当初は木箱集積場所として「明渡要求次第無条…
あてはめ
本件では、賃借人が買い取った建物は極めて粗末かつ小規模なバラック小屋に過ぎず、その買取りも居住者を立ち退かせるための手段としての性格が強い。このような経緯や建物の実態に照らせば、本件賃貸借を建物所有目的と認めるには足りず、一時使用目的のものと認定するのが相当である。また、賃借人が高齢で敗訴により路頭に迷う可能性があるとしても、その一事をもって賃貸人による適法な権利行使を社会通念上容認できない権利濫用と評価することはできない。
結論
本件賃貸借は建物所有を目的とするものではなく、借地法の適用はない。また、明け渡し請求は権利濫用にも当たらず、上告人の上告を棄却する。
実務上の射程
借地借家法の適用範囲(「建物所有目的」の有無)を判断する際、土地上の建物の構造が堅固でない場合や、建物の取得が立ち退き交渉の付随的手段に過ぎない場合には、一時使用等の別目的が認定されやすいことを示す。権利濫用の抗弁については、単なる個人的困窮の事情だけでは極めて認められにくいという実務上の通説的態度を再確認するものである。
事件番号: 昭和36(オ)220 / 裁判年月日: 昭和36年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮設建物所有を目的とした土地賃貸借について、その実態が一時使用目的であることが明らかな場合には、借地法の適用を受けない一時使用目的の借地権(借地借家法25条参照)として認められる。 第1 事案の概要:本件土地賃貸借は、仮設建物を所有することを目的として締結された。賃貸借期間の終了後、被上告人(賃貸…
事件番号: 昭和25(オ)293 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
借地法にいわゆる建物とは、一般通念に従つてその意義を定むべきで、家屋台帳等公の帳簿に記載され課税の対象となつているものだけに限るものと解すべきではない。
事件番号: 昭和27(オ)725 / 裁判年月日: 昭和29年11月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】家庭菜園は、農地調整法(現:農地法)にいう「農地」には該当せず、また借地法(現:借地借家法)上の借地権の成立が否定される場合には、同法の更新等の規定は適用されない。 第1 事案の概要:上告人らは、対象となる土地について家庭菜園として利用していた。上告人らは、当該土地の利用について借地法上の保護(更…