賃貸家屋に対し第三者が不法占有により所有者たる賃貸人に対し損害を与えている場合において、その損害額は、賃料相当額にかぎられるものでない。けだし、賃料額は、契約当事者間の個人的関係にもとづいて定められるのであつて、第三者の不法占有による損害賠償額の基準としなければならないものでないからである。
賃貸家屋に対する第三者による不法占有と損害額の算定。
民法601条,民法709条
判旨
不法占有に基づく損害賠償額の算定において、賃貸人と第三者(正当な賃借人)との間で合意された賃料額は、不法占有者が賠償すべき損害額の基準を拘束するものではない。
問題の所在(論点)
建物の不法占有者に対する損害賠償請求において、賃貸人と正当な賃借人との間で定められた賃料額が、損害賠償額(賃料相当損害金)の算定を拘束するか。
規範
不法占有に基づく損害賠償額(賃料相当損害金)は、客観的な交換価値に基づき算定されるべきである。賃貸人と正当な賃借人との間で約定された賃料額は、当事者間の個人的関係や諸般の事情に基づいて定められる相対的なものにすぎないため、第三者による不法占有の場合の賠償額を当然に拘束するものではなく、裁判所は鑑定結果等に基づき適正な額を算定できる。
重要事実
建物の所有者である被上告人は、訴外Dとの間で本件建物の賃貸借契約を締結していた。しかし、上告人ら(A1、A2、A3)が権原なく本件建物を共同占有していたため、被上告人は上告人らに対し、不法占有に基づく損害賠償を請求した。一審および原審は、Dとの間の約定賃料額に拘束されず、鑑定の結果に基づき損害額を算定した。これに対し上告人らは、Dとの約定賃料を基準にすべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件における被上告人とDとの間の賃貸借関係において定められた賃料額は、あくまで契約当事者間の個人的関係に基づいて合意されたものである。不法占有という違法行為を行った第三者である上告人らに対する損害賠償額を定めるにあたっては、かかる特定の当事者間の合意に拘束される必要はない。原審が、鑑定という客観的な手段を用いて損害額を算定したプロセスに合理性が認められるため、約定賃料と異なる額を賠償額とした判断は適法である。
結論
不法占有による損害賠償額は、既存の賃貸借契約における賃料額に拘束されず、鑑定等に基づき算定できる。
実務上の射程
賃料相当損害金の算定において、現存する(または過去に存在した)賃貸借契約の賃料が相場より低額であったとしても、不法占有者に対しては相場(客観的賃料額)を基準に請求できることを示した判例である。不当利得返還請求における『利得』の範囲を検討する際にも参照されるべき法理である。
事件番号: 昭和38(オ)246 / 裁判年月日: 昭和40年4月20日 / 結論: 棄却
一 判示の事情のもとでは、本件店舗については、真実の経営者と、経営者名義人の両名による共同占有が成立するものと認めるのが相当である。 二 かりに訴額の算定について違法であつても、これを看過してなされた訴訟行為の効力は無効とはいえない。