破綻惹起について主として責任のある当事者からの離婚請求が許されないとされた事例。
判旨
婚姻関係の破綻を招くについて専ら又は主として責任のある当事者(有責配偶者)は、その破綻を「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚請求を行うことはできない。
問題の所在(論点)
婚姻関係の破綻について主たる責任を有する配偶者(有責配偶者)から、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとしてなされる離婚請求は認められるか。
規範
婚姻関係の破綻を招いたことについて、専ら又は主として責任のある当事者は、信義則上、自ら作り出した破綻状態を理由として婚姻を継続し難い事由(民法770条1項5号)がある旨を主張し、離婚を請求することは許されない。
重要事実
上告人(夫)は、特段の事情がないにもかかわらず、被上告人(妻)を自己の義姉と同居させ続け、両者の確執を放置した。また、自宅から通勤可能な勤務地にありながら、あえて別居して下宿し、帰宅しても被上告人と寝室を異にするなどの行動をとった。さらに、9年以上の長期間にわたり、被上告人が拒絶していないにもかかわらず肉体関係を拒み、冷淡な態度をとり続けた結果、夫婦関係は破綻するに至った。
あてはめ
上告人は、妻を親族との確執の中に放置し、理由なき別居や同居中の寝室分離、9年余に及ぶ性交渉の拒絶といった冷淡な態度を継続している。これらの態度は夫婦間の阻隔を深め、婚姻関係を破綻に至らしめた主たる原因である。したがって、本件婚姻関係の破綻について「主として責任のある当事者」は上告人であると評価される。このような有責配偶者からの離婚請求は、自らの不当な行為を根拠とするものであり、信義則上許容されない。
結論
上告人(有責配偶者)からの離婚請求は認められない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は有責配偶者からの離婚請求を原則として否定する当時の確定的な判例(いわゆる消極破綻主義)を示すものである。後に最大判昭62.9.2により、長期間の別居、未成熟子の不存在、相手方の過酷な状況の欠如という3要件を満たせば有責配偶者からの請求も認められ得ると変更されたが、本判決の「有責性」の判断枠組み自体は現在も信義則判断の基礎として重要な意義を持つ。
事件番号: 昭和38(オ)1144 / 裁判年月日: 昭和40年4月30日 / 結論: 棄却
夫婦間の婚姻関係を継続することが事実上困難になつているとしても、その原因が配偶者の一方の背信行為によつて惹起されたものと認めるのが相当である場合には、その者は民法第七七〇条第一項第五号により離婚を求めることはできない。