破産者より不動産の譲渡を受けた者に対する登記が否認された場合において、その不動産が善意の転得者の所有に帰していて返還請求ができないため、右受益者に対する代価償還請求が行われるときの償還価額は、否認権行使の時の右不動産の時価を基準として算定される。
登記の否認によつて受益者に対する代価償還請求が行われる場合の価額算定の基準時。
破産法74条,破産法77条
判旨
破産法上の否認権行使に基づく価額償還額の算定は否認権行使時の価額を基準とすべきであり、受益者が支出した修理費等は別途破産財団に対する請求権の問題として処理されるべきである。また、代理人によって登記申請がなされた場合の転得者の悪意の有無は、当該代理人を基準として判断すべきであるが、その前提となる代理関係の存否については厳格な証拠に基づく認定を要する。
問題の所在(論点)
1. 否認権行使に基づく価額償還額を算定する際、受益者が支出した修理費等を控除すべきか。 2. 転得者の悪意を判定するにあたり、登記申請行為の代理人の知見を本人(転得者)の知見と同視できるか、またその際の代理関係の認定の在り方。
規範
1. 否認権行使による価額償還の範囲は、原則として否認権行使時における目的物の価額を基準とする。受益者が支出した修理費等の費用は、償還額の算定において直接控除されるものではなく、破産財団に対する別途の請求権の問題として取り扱われる。 2. 転得者に対する否認(破産法旧74条、現164条等参照)における「悪意」の判定において、代理人によって登記申請がなされた場合には、代理人の主観を基準に転得者自身の悪意を推認し得るが、その前提として代理関係の存在が証拠に基づき確定されていなければならない。
重要事実
破産会社から不動産を取得した上告人A1が保存登記を行い、その後、転得者A2に対して所有権移転登記がなされた。破産管財人は、A1の取得が支払停止後の悪意によるものであるとして否認権を行使し、現物返還に代わる価額償還(120万円)を求めた。A1は、取得後に支出した修理費約50万円を償還額から控除すべきと主張。一方、転得者A2については、A1がA2の代理人として登記申請を行ったことを理由に、A1の悪意をもってA2の悪意が認定されたが、実際には司法書士がA2を代理していた疑いがあった。
あてはめ
1. A1の償還義務について:原審は、取得時および否認権行使時の価額がいずれも120万円を下らないと認定している。A1が主張する修理費等の出捐は、破産法上の否認の効果(原状回復)としての償還額を直接減額させる要因ではなく、別途破産財団に対する請求権として処理すべき事柄であるため、120万円全額の償還義務を認めた判断は正当である。 2. A2の悪意について:原審はA1がA2を代理して登記申請したと前提したが、記録上、A2は司法書士を介して申請しており、A1が代理した証拠はない。代理関係の存在に誤認がある以上、代理人の知見を根拠にA2の悪意を推認した認定には、審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
1. A1に対する価額償還請求は、修理費等を控除せず否認権行使時の価額を基準とした原判決を維持し、上告棄却。 2. A2に対する否認については、悪意の前提となる代理関係の認定に瑕疵があるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
否認権行使の目的物が返還不能な場合の価額償還基準時が「否認権行使時」であることを明示した点に実務上の意義がある。答案上では、受益者が善意・無償の場合(現167条2項)を除き、受益者の支出(有益費等)を直接否認債権から差し引くことはできないと論じる際の根拠となる。また、転得者の悪意を代理人基準で判断する場合、その代理権の具体的範囲と事実認定の重要性を強調する際にも参照される。
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