一 特許の無効審判事件において、当事者が弁理士に対して交付した委任状に当該審判手続のほか抗告審判に関する特別委任をなす旨の文言が印刷記入されている場合に、かかる文言を全然意味のない例文であるとみるべき経験則はなく、またかような慣習の存在が裁判上顕著な事実であるともいえない。 二 期間を遵守することができなかつたことについて、当事者本人にその責に帰することができない事由があつても、同人に代つて当該手続をする権限のある代理人に右の事由がない場合には、旧特許法第二五条によつて懈怠した手続の追完をすることはできない。
一 特許審判の委任状に印刷記入された抗告審判に関する特別委任の文言は例文か 二 旧特許法第二五条による追完の許否
旧特許法17条,旧特許法25条,民訴法257条,民訴法159条
判旨
期間不遵守につき当事者本人に不責事由があっても、手続をする権限のある代理人に同事由がない場合には、手続の追完は許されない。また、委任状に抗告審判に関する特別委任の文言がある場合、慣習等の特段の事情がない限り、代理権の授与を認めるのが相当である。
問題の所在(論点)
手続の追完が認められるための「責に帰することができない事由」の判断基準、および委任状に印刷された特別委任条項の効力。
規範
不変期間の徒過等による手続の追完において、期間を遵守できなかったことにつき「その責に帰することができない事由」があるか否かは、当事者本人のみならず、その代理人を基準としても判断される。すなわち、当事者本人に不責事由があっても、当該手続をなす権限を有する代理人にその事由がない場合には、手続の追完は認められない。
重要事実
上告人は特許無効審判の審決に不服があり抗告審判を請求しようとしたが、インフルエンザによる高熱で心神もうろう状態となり、法定の抗告期間を徒過した。しかし、本件無効審判に関与していた弁理士Dに交付された委任状には、抗告審判の請求に関する権限を授与する旨の文言が印刷・記載されていた。上告人は、本人に不責事由があること、および当該文言は単なる例文であり代理権授与の意思はなかった(慣習がある)と主張して、手続の追完(当時の特許法25条)を求めた。
あてはめ
まず、弁理士Dの委任状には抗告審判の特別委任の文言が明記されており、これが無意味な例文であるとする慣習や経験則は認められないため、Dは適法な代理権を有していたといえる。次に、期間徒過について上告人本人に高熱という不責事由があったとしても、代理権を有する弁理士Dについて同様に期間を遵守できなかった不責事由(病気等)があるとの主張・立証はなされていない。したがって、代理人を通じて手続を行うことが可能であった以上、手続全体の懈怠について不責事由があるとは認められない。
結論
上告人に代理権を有する弁理士が存在し、その者に不責事由がない以上、手続の追完は認められない。
実務上の射程
民事訴訟法97条1項の「責に帰することができない事由」の解釈において、代理人が選任されている場合の判断基準を示す重要判例である。答案上は、本人の事情だけでなく代理人の過失の有無を検討する際の根拠として用いる。また、委任状の記載を形式的に信頼する帰責性の論理としても応用可能である。
事件番号: 昭和31(オ)42 / 裁判年月日: 昭和33年9月30日 / 結論: 棄却
期間を遵守することができなかつたことについて、当事者本人にその責に帰することができない事由があつても、同人に代つて当該手続をする権限のある代理人に右の事由がない場合には、特許法第二五条によつて懈怠した手続の追完をすることはできない。