現に当事者の一方が婚姻の継続を熱望していても婚姻を継続し難い重大な自由があるとされた事例。
判旨
婚姻を継続し難い重大な事由の発生について、相手方の責任が申立人の責任以上である場合には、信義則に反せず離婚が認められる。また、主たる破綻原因が相手方にある場合、一時的な同居・協力義務の不履行があっても悪意の遺棄には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 婚姻関係破綻の主たる原因が相手方にある場合に、家出等の義務不履行が「悪意の遺棄」に当たるか。2. 破綻について双方に責任がある場合、責任の軽い側からの離婚請求は信義則に反し許されないか。
規範
1. 民法770条1項2号の「悪意の遺棄」は、単なる同居・協力義務の不履行だけでなく、正当な理由のない扶助義務の不履行を伴う等の事情を要し、婚姻関係破綻の主たる原因が相手方にある場合にはこれに該当しない。2. 同項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」による離婚請求が信義則に反するか否かは、破綻の原因となった責任の程度を比較衡量して判断すべきであり、請求者の責任が相手方の責任を上回らない場合には、離婚請求は許容される。
重要事実
夫(被上告人)が、嫁姑間及び夫婦間の融和に努力せず妻子を置いて家出したことが「悪意の遺棄」に当たるか、また離婚請求が信義則に反するかが争われた。原審の認定によれば、妻(上告人)の常軌を失った言動が婚姻関係破綻の主たる原因であり、夫側の責任は妻側の責任より小さいと判断された。妻側は婚姻継続を熱望していたが、客観的には破綻状態にあった。
あてはめ
1. 本件では妻の常軌を失った言動が破綻の主たる原因であり、これによって婚姻関係が破綻した後に夫が同居等の義務を完全に履行しなかったとしても、不法な遺棄の意図(悪意)があるとは認められない。2. 破綻の主因が妻側にあり、全体として「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる。責任の程度を比較すると、妻側の責任が夫側の責任以上であるため、夫からの請求が信義則(民法1条2項)に反して離婚を強いるものとはいえない。妻が主観的に婚姻継続を熱望していても、客観的破綻の事実は左右されない。
事件番号: 昭和36(オ)1337 / 裁判年月日: 昭和38年5月7日 / 結論: 棄却
夫が全く離婚の覚悟を固めてしまい、その後他の女と事実上の婚姻関係を結び同女との間に二子をもうけるに至つた等判示の事情のもとで、婚姻を継続し難い重大な事由があるとするのは正当である。
結論
本件離婚請求は「悪意の遺棄」には該当せず、また妻側の責任が重い以上、信義則にも反しないため、民法770条1項5号に基づき離婚は認められる。
実務上の射程
有責配偶者からの離婚請求に関する昭和62年大法廷判決の前段階の判例であり、責任の程度を比較衡量する「相対的有責性」の考え方を示す。答案上は、破綻原因が相手方に主にある場合の反論(信義則違反の排斥)として、責任の軽重を具体的事実から認定する際の論理として活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)386 / 裁判年月日: 昭和32年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】夫婦間の性格の相違や夫の過去の非行がそれ自体で直ちに離婚原因とはならないとしても、これらに加え諸般の事情を総合して判断し、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる場合には、民法770条1項5号の離婚原因に該当する。 第1 事案の概要:被上告人(妻)が上告人(夫)に対し、性格の相違や上告人の過去…