一 訴状において停止条件附代物弁済契約の条件成就による所有権取得の効果の主張のみが記載されている場合においても、原告がその後の弁論において、代物弁済の予約の主張を追加してその予約の完結権行使が訴状の送達をもつてされた旨主張したときには、その訴状送達の時に右予約完結権の行使があつたものと認めることができる。 二 貸金担保のための代物弁済の予約において、被担保債務に対し一割に満たない一部の内入弁済があつても、特別の事情のないかぎり、その予約完結権は消滅しないものと解するのが相当である。
一 訴状の送達の時に代物弁済の予約完結権の行使があつたものと認められた事例 二 被担保債務の一部の内入弁済と代物弁済の予約完結権
民法482条(556条),民訴法229条1項
判旨
金銭消費貸借債務の元金、利息、貸付日、弁済期のいずれか一事項に相違があっても直ちに債務の同一性は失われず、また、担保される債権額が一部減少したとしても、特段の事情がない限り代物弁済予約完結権は消滅しない。
問題の所在(論点)
1. 貸付日や弁済期等の要素について当事者の主張と認定が異なる場合に、債務の同一性が認められるか。 2. 利息の元金充当等により被担保債権額が一部減少した場合に、代物弁済予約完結権は消滅するか。
規範
1. 債務の同一性について:金銭消費貸借における元金、利息、貸付日、弁済期の一部について、当事者の主張と裁判所の認定が合致しない場合であっても、それが争点となっている事実の認定である限り、直ちに債務の同一性が失われるものではない。 2. 予約完結権の消滅について:代物弁済の予約において、担保されるべき債権額が一部減少したとしても、特段の事情のない限り、代物弁済予約完結権は消滅しない。
重要事実
被上告人が上告人に対し、元金150万円、利息月2分、弁済期昭和31年2月9日等の約定による金銭消費貸借の成立を主張した。これに対し上告人は、利息月3分、弁済期同30年2月9日であると主張して争った。原審は、弁済期を上告人の主張通り同30年2月9日と認定しつつ、被上告人主張の債務との同一性を肯定した。また、上告人は利息制限法超過分の元金充当により債権額が減少したため、代物弁済予約完結権は消滅したと主張した(計算上、減少額は10万円から15万円程度であった)。
事件番号: 昭和39(オ)1368 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。
あてはめ
1. 債務の同一性について:被上告人は一定の条件下の貸借を主張し、上告人も利息・弁済期以外は認めている。裁判所が争点となった弁済期について被上告人の主張を排斥し、上告人の主張に近い時期を認定したとしても、それは争いのある事実を認定したに過ぎない。要素の一部に相違があっても貸金債務の同一性は失われない。 2. 完結権の消滅について:仮に利息制限法超過部分を元金に充当し、150万円の元金が10万円から15万円程度減少したとしても、それは債権の一部減少に過ぎない。このような僅かな減少が生じたからといって、予約を無効としたり完結権を消滅させたりすべき特段の事情は認められない。
結論
1. 元金、利息、貸付日、弁済期のいずれか一つが異なっても債務の同一性は失われない。 2. 担保債権額が一部減少しても、特段の事情がない限り代物弁済予約完結権は消滅しない。
実務上の射程
訴訟物たる債権の特定において、付随的要素の認定が主張と食い違っても同一性を維持できるとする点で実務上重要である。また、代物弁済予約の有効性に関し、被担保債権の厳密な額との相関関係を柔軟に解する規範として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)258 / 裁判年月日: 昭和39年12月22日 / 結論: 破棄差戻
貸金債権を担保する不動産の売買予約完結権につき右債務を弁済したときは予約完結権のための所有権移転請求権保全の仮登記を抹消する旨の調停が成立した場合において、調停条項に右予約完結権の行使の効果について明記されておらずその他判示事情のもとでは、右調停により、前記予約完結権の行使の効果が当初の代物弁済的性質から、いわゆる清算…
事件番号: 昭和39(オ)919 / 裁判年月日: 昭和40年3月11日 / 結論: 棄却
不動産を目的とする代物弁済の予約完結の意思表示がなされたときは、これにより、該不動産の所有権移転の効果が生ずるものと解すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和38年3月28日 / 結論: 棄却
米国に移住のため在日財産処分の必要に迫られた者が渡米の日とにらみ合せて売買代金支払および登記手続履行の日時を定めて建物の売買契約をした場合でも、右期日までに代金支払がなされなければ相当の不便を感じることが推測されるだけで売買の目的を達しえない事情までは認められない以上、これを定期行為とみることはできない。
事件番号: 昭和41(オ)158 / 裁判年月日: 昭和41年9月29日 / 結論: 破棄差戻
契約書に特定不動産をもつて代物弁済をなす旨の記載がなされている場合でも、右不動産の売却代金から原判示の貸金債権を精算のうえ残額を債務者に返還する旨の約定が債権者債務者間になされている等原審認定(原判決理由参照)の事情のもとにおいては、前記代物弁済なる記載に依拠して前記契約が代物弁済契約であると認定することは違法である。