家屋の賃貸人が契約解除の前提として同一市町村に住む賃借人に対し過去約一年間の延滞賃料約三万円の催告をなすにつき定めた期間が一日であつても、賃貸人賃借人間に約三年前より家屋明渡請求訴訟が継続し、右訴訟において賃借人が家屋所有権の帰属を争い、あるいは賃料の増額を争つて賃料の支払を拒否したまま経過したなど判示事情があるときは、右催告期間は相当である。
契約解除の前提としてなした延滞賃料の催告につき定めた一日の期間が相当と認められた事例
民法541条
判旨
債務不履行に基づく契約解除の催告期間が極めて短期間であっても、債務者が債務の存在や額を争い、履行する意思がないことが明らかな場合には、民法541条の相当な期間を定めた催告として有効である。
問題の所在(論点)
履行を催告してから解除までの猶予期間が1日間という極めて短い期間であった場合、民法541条の「相当の期間」を定めた催告として認められるか。
規範
民法541条に基づく解除の要件たる「相当の期間」を定めた催告とは、債務者が履行の準備をし、履行を完了するのに通常必要な期間を指す。もっとも、債務者が従前から債務の存在を争い、あるいは履行を拒絶する態度を明確にしているなど、期間の長短が履行の事実に影響を及ぼさない特段の事情がある場合には、客観的に短い期間であっても、同条の催告として有効と認められる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料の支払を求め、指定期限までに支払がないときは解除する旨を内容証明郵便で通知した。当該通知が到達してから期限までは最短1日間しかなかった。一方、賃借人は従前、無償使用の合意があった、あるいは所有権が自己に復帰した等と主張して賃貸借関係そのものを争い、さらに賃料増額の効力も否定して、少額の支払を除き一切の支払を拒み続けていた。
あてはめ
本件では、到達から期限まで1日という期間は、客観的には債務の履行準備に十分な期間とは言い難い。しかし、上告人は数年にわたり賃貸借の存否や賃料額を激しく争い、支払を拒絶し続けていた。このような状況下では、上告人に履行の意思がないことは明白であり、催告期間をより長く設定したとしても、その期間内に履行がなされる見込みはなかったといえる。したがって、両者が近隣に居住している事情等も鑑みれば、1日の猶予であっても「相当の期間」を欠くものとはいえず、催告は有効である。
結論
本件催告は民法541条にいう相当の期間を定めたものとして有効であり、解除は認められる。
実務上の射程
催告期間が不当に短い場合でも、直ちに催告が無効になるわけではない。実務上は、①債務者が履行を拒絶する態度を明確にしている、②期間経過後も債務者が履行を怠っている等の事情があれば、相当期間の経過をもって解除の効力を肯定する構成(最高裁昭和31年12月6日判決等)と並び、本判決のように期間自体の相当性を肯定するロジックとして活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)707 / 裁判年月日: 昭和37年2月2日 / 結論: 棄却
一七カ月分の延滞家賃の支払の催告書が賃借人に到達した二日後に賃貸借解除の意思表示が到達するなど原審認定の諸事情のもとでは、右催告は、民法第五四一条にいう相当期間を定めてなされたものとは解せられない。