土地賃借権の存否につき争いのある場合において、土地所有者が地代の弁済としての供託金および地代として支払われた現金を受領した事実があつても、かつて土地の賃貸借がなされた事実なく地上建物も土地所有者の承諾を得ずに建築されたものであり、右供託金および現金の受領も、両者間の紛争の仲裁に入つた第三者からこれを受領しないと物事に角が立つからとすすめられた結果なされたものであるときは、右受領により、土地所有者において賃貸借を承認し、もしくは新たに賃貸借契約を結んだことになるものではない。
土地賃借権の存否につき争いのある場合において地代の弁済としての供託金および地代として支払われた現金を土地所有者が受領したときの効果。
民法494条
判旨
賃借権の存否に紛争がある際、地代名目の金員を受領したとしても、仲裁者の勧告に従い角が立つのを避ける等の事情があれば、直ちに賃貸借の承認や新契約の成立とは認められない。
問題の所在(論点)
賃借権の存否に争いがある状況で、地代名目の金員を異議を留めずに受領した行為が、賃貸借契約の存在の承認(黙示の意思表示)または新契約の締結とみなされるか。
規範
賃借権の存否をめぐり紛争がある場合において、地代名目の供託金や現金を受領したとしても、それが賃貸借の対価(地代)として受領されたものではなく、かつ、既往に遡って賃貸借を承認し、または新たに賃貸借契約を締結したものと認めるべき特段の事情がない限り、賃貸借の成立や継続を推認することはできない。
重要事実
上告人は被上告人の承諾なく土地上に建物を建築し、賃借権の存否をめぐって紛争が生じていた。上告人は地代支払として金員を供託し、また2か月分の地代名目で現金を提示した。被上告人はこれらを受領したが、その経緯は、紛争の仲裁に入った第三者から「受領しないと物事に角が立つ」と勧められたことによるものであった。上告人は、この受領を賃貸借の承認であると主張して争った。
事件番号: 昭和30(オ)846 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務が存在しないことを知りながら任意に弁済を行った場合、民法705条の非債弁済に該当し、不当利得返還請求権は否定される。公定賃料を超過する賃料の支払いであっても、支払義務がないことを認識していれば同条が適用される。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃貸人との間において約定の賃料を支払う旨の契…
あてはめ
被上告人には土地を賃貸した事実がなく、上告人の無断築造により紛争中であった。被上告人の金員受領は、地代としての受領ではなく、仲裁者の勧告に従って円滑な関係維持を優先したに過ぎない。したがって、上告人が地代の趣旨で提供したとしても、被上告人において賃貸借の対価として受領した趣旨とは解されない。本件では、賃貸借を遡及的に承認し、あるいは新契約を締結したと認めるべき特段の事情も存在しない。
結論
被上告人の受領行為によって賃貸借契約が成立または承認されたとはいえず、上告人の賃借権主張は認められない。
実務上の射程
本判決は、無権限占有者による地代提供に対する受領行為の法的評価を示す。実務上は、賃貸借終了後や不法占有中の「賃料相当損害金」としての受領か「賃料」としての受領かの区別が重要となるが、本判決は「受領の背景事情」を重視し、安易な黙示の更新や承認の認定を否定する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)911 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人たる地位の承継に関する合意がない場合において、新所有者が賃借人に対して行う土地明渡請求が信義則に反し権利の濫用にあたるとはいえない。 第1 事案の概要:土地の所有者D(訴外)が、本件土地を被上告人(新所有者)に売り渡した。上告人(賃借人)は、Dが賃貸借上の権利義務を被上告人に承継させる意思を…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和36(オ)43 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
土地所有者が仮設建築物を所有して土地を不法占有する者を相手方として土地明渡の調停を申立てたところ、その建物の居住者が利害関係人として期日に出頭し、なお居住者が多数あることが判明したので、事態の解決を計るため、調停外において右居住者中の有力者一名と期間を一〇年とする土地賃貸借契約を結び、一〇年後には必ず返地することを確約…
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…