破産法第七二条一号による否認権行使の訴訟において破産者が支払停止の前日特定債権者に担保を供与したことを立証し得てもその事実だけで破産者の詐害の意思の存在を立証したものとなすことはできない。
破産者が支払停止の前日特定債権者に担保を提供した場合と破産者の詐害の意思の立証。
破産法72条1号,破産法72条2号
判旨
破産法における詐害行為否認(旧破産法72条1号、現160条1項1号)の行使において、破産者の詐害の意思に関する立証責任は否認権を行使する側にあり、支払停止直前の行為であってもその意思が当然に推定されるものではない。
問題の所在(論点)
破産法上の詐害行為否認において、支払停止直前の担保提供等の行為があった場合に、破産者の詐害の意思が経験則上当然に推定され、立証責任が転換されるか。
規範
詐害行為否認において、破産者の詐害の意思(破産債権者を害することを知ってしたこと)の立証責任は、原則として否認権を行使する側(破産管財人等)が負う。当該行為が支払停止の直前になされた事実は、詐害の意思を推認させる有力な間接事実にはなり得るものの、その事実のみをもって直ちに詐害の意思の存在が法的に推定されるものではない。
重要事実
破産会社Dは、支払停止(昭和26年11月17日)の直前である同月16日に、被上告人B1に対しマーマレード缶詰を引き渡して担保に供した。また、被上告人B2に対しても商品の搬出を承諾し、B2はこれを他所に寄託した上で売却処分し代金を取得した。破産管財人(上告人)は、これらの行為が他の一般債権者を害するものであるとして、旧破産法72条1号(現160条1項1号)に基づき否認権を行使したが、破産者の詐害の意思の有無が争点となった。
事件番号: 昭和27(オ)1061 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】破産者が詐害の意思がないと誤信して抵当権を設定した場合でも、法律の誤解に基づく判断のみで直ちに詐害意思を否定することはできないが、受益者が設定時及び登記時に債権者を害することを知らなかったときは、否認権は行使できない。 第1 事案の概要:破産会社Dは、昭和25年7月に支払停止、8月に破産宣告を受け…
あてはめ
本件において、破産会社が支払停止のわずか前日に特定の債権者(B1)へ担保提供を行った事実は、詐害の意思を立証するための有力な間接事実にすぎない。また、B2による商品搬出についても、搬出承諾の時点で破産会社に詐害の意思が認められない以上、その後にB2が商品を売却処分したとしても、遡って破産会社の詐害の意思を肯定することはできない。したがって、否認権を行使する上告人がこれらの事実を超えて詐害の意思を具体的に立証できない限り、否認権の要件を充足したとはいえない。
結論
詐害の意思の立証責任は依然として否認権行使の側にあり、支払停止直前の行為であることのみをもって詐害の意思は推定されない。本件否認請求は棄却される。
実務上の射程
詐害行為否認(160条1項1号)の主観的要件(詐害の意思)の立証責任を明確にした判例である。答案上は、支払停止後の行為に関する偏頗行為否認(162条)とは異なり、160条の枠組みでは支払停止の前後を問わず管財人側が詐害の意思を立証すべきであることを指摘する際に用いる。また、支払停止直前という事実が「有力な間接事実」に留まるという点は、事実認定の比重を論じる際の規範として機能する。
事件番号: 昭和37(オ)1262 / 裁判年月日: 昭和40年4月22日 / 結論: 棄却
一 大口債権者が本件土地の所有権を取得することによりその債務が消滅すれば、残る小口債権者に対する支払は必ずしも困難ではなく、破産会社の債権、操業再開も必ずしも不可能でないということを破産会社の首脳部が信じてなした本件土地の右大口債権者に対する代物弁済契約もしくは根抵当権設定契約に破産債権者を害する意思が認められないとし…