抵当権設定契約に基づく抵当権設定登記手続請求事件において、原告は抵当権の被担保債権は、抵当権設定の日に被告に貸し付けた貸付金債権であると主張したのに対し、裁判所が右被担保債権は右設定の日より三、四箇月前に訴外人と被告との間に成立した、金銭消費貸借契約につき、右設定の日に債権者を原告とする更改契約がなされたうえ、原告と被告との間に右貸金債権を目的として成立した準消費貸借上の債権と認定(債権額、弁済期および利息は主張のとおり)し、その間に債権成立の原因に関し若干の相異があるとしても認定の債権、それを被担保債権とする抵当権と原告主張のそれらとの間には同一性が認められるから、裁判所の右認定には、訴訟物たる具体的請求の同一性を害する違法はない。
抵当債権の成立につき主張と認定との間に同一性が認められ訴訟物の同一性が害されないとされた事例。
民訴法186条
判旨
抵当権設定登記手続請求において、被担保債権の発生原因につき、原告主張の金銭貸借と裁判所が認定した更改後の準消費貸借との間に若干の相違があっても、債権の同一性が認められる限り、訴訟物の同一性は失われない。
問題の所在(論点)
抵当権設定登記請求において、被担保債権の発生原因について原告が主張する事実(直接の貸付け)と、裁判所が認定した事実(更改・準消費貸借)が異なる場合、訴訟物の同一性を欠き、弁論主義に反する違法な判決となるか。
規範
訴訟物たる具体的請求の同一性が維持されている限り、当事者が主張する請求の原因事実と裁判所が認定した事実との間に細部の相違があっても、弁論主義の原則に反しない。特に被担保債権の特定において、発生原因の態様に差異があっても、金額・当事者・時期等の枢要な部分において債権の同一性が認められるならば、判決の基礎とすることができる。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)らに対し、昭和25年6月16日に成立した抵当権設定契約に基づき、抵当権設定登記手続を求めて提訴した。被上告人は、被担保債権を同日に上告人Aへ直接貸し付けた120万円の貸付金債権であると主張した。これに対し原審は、当該債権はもともと第三者Dと上告人Aとの間の貸金債権であったが、同日に被上告人を債権者とする更改契約および準消費貸借契約がなされたことで成立した債権であると認定した。
事件番号: 昭和37(オ)1355 / 裁判年月日: 昭和39年12月25日 / 結論: 棄却
抵当権設定登記をする前に被担保債権の一部が弁済されても、債権者はその債権全額について右登録手続を請求することができる。
あてはめ
被上告人が主張した「直接の金銭貸用」という発生原因と、原審が認定した「更改および準消費貸借」という発生原因の間には、債権発生の法的形式において若干の相違がある。しかし、債権額(120万円)、当事者(被上告人と上告人A)、弁済期、利息の約定などは、いずれも被上告人の主張と合致している。このような場合、実質的には同一の債権を指しているものといえる。したがって、債権発生原因の細部に関する認定の相違は、訴訟物たる具体的請求の同一性を害するものではないと解される。
結論
被担保債権の同一性が認められる以上、原審の認定は適法であり、被上告人の請求を認容した判断は正当である。
実務上の射程
抵当権の附従性に関する事実認定の限界を示す。実務上、被担保債権の特定は重要だが、債権を構成する事実の一部(発生の経緯)について主張と認定が異なっても、債権自体を特定する主要素が一致していれば、弁論主義違反や不意打ちにはならないことを示す射程を持つ。答案では、訴訟物の特定や弁論主義の第1テーゼに関する論述で活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)427 / 裁判年月日: 昭和37年5月25日 / 結論: 棄却
抵当権設定の仮登記がある不動産につき第三者が所有権取得登記をした場合、仮登記権利者は、右第三者に対し直接に本登記手続を請求することができるが、また仮登記義務者に対し本登記手続を請求することもできると解するのが相当である。
事件番号: 昭和35(オ)489 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
抵当権設定登記手続請求事件において、被担保債権の弁済期が昭和二八年一〇月二〇日と主張されたのに、これを同二九年二月二五日と認定して請求を認容しても、当事者の申し立てない事項について判決したことにはならない。
事件番号: 昭和25(オ)377 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 棄却
四月一三日に成立した消費貸借上の債務につき、同月三〇日になされた抵当権設定登記において、右消費貸借成立の日が三月三一日と表示されていても、同一の消費貸借を表示するものである以上、右登記は有効である。
事件番号: 昭和34(オ)61 / 裁判年月日: 昭和35年7月27日 / 結論: 棄却
抵当権の仮登記ある不動産の所有権が第三者に移転したときは、仮登記権利者は第三者に対し直接に抵当権設定本登記手続を請求することができる。